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□望む不変
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彼女は、なんでもないことのように、僕がいなかったときの話をする。
辛かった、そんな風なことはおくびにも出さず、まるで毎日楽しかったとでもいうように。
わかっている、それは、詩音なりの気遣いなのだと。
詩音は、無駄に謝られたりだとか、あんまり好きじゃないみたいだから。
でもさ、付き合っている身としては、もう少し頼ってくれてもいいんじゃないかとか、もっと弱い面を見せてくれてもいいんじゃないかとか思うわけで。
「……悟史くん?」
ぼうっとしている僕を気にかけるように、詩音は僕を覗き込んでくる。
君はひたすらに、優しい。
「ううん。なんでもないよ」
笑ってそういうも、詩音は不満そうにふくれ面。
「いつもそうです。悟史くんって、私に心配させてくれない」
「それは、お互い様じゃないかな」
強がりなところも、もちろん好きなんだけど。
多分、詩音が抱え込んでいるものは大きすぎるから、少しでも、僕に預けてほしい。
そもそもの原因は僕にあるから、下手なこと言えないけどね。
「お互い様、ですか?」
「……なに、その顔」
「私、別に悟史くんに心配されるようなことないですし」
「……むぅ」
そりゃあ、今、現在進行形ではないかもしれないけど。
僕がいなかったときの辛さは、計り知れない。
今だってきっと不安で仕方ないんだろう。
いつもいつも、ずっとくっついているのがその証拠で。
最初の頃こそそれに戸惑ったし、恥ずかしかったけど、逆に僕が詩音の立場だったら、とか考えてみれば、それも受け入れざるを得なくなった。
詩音は、一年間も、生きてるか死んでるかも分からない僕を待ち続けてくれていたんだ。
僕には、そんなこと、出来るかな。
まず、詩音がいなくなるということがリアルに想像できなくて、だからこそ、一年間も想うだけだなんて、辛すぎるに決まってると思った。
思った、んだけど。
ただ、君と一緒にいることしか出来ない自分に不甲斐なさを感じた。
「詩音、あのさ」
「はい?」
「僕、もう、どこにも行かないから。約束」
「……へ?」
きょとん、とした顔の詩音にほら、と小指を差し出す。
詩音は首を傾げながらも同じように小指を出してきた。
季節はもう冬で、このあとも巡り巡って時は過ぎていくんだろう。
そうしてどんなに季節が変わっても、変わらないのは僕が彼女の隣にいること、それだけでいい。
2010*12*16
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