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□計算尽くの笑顔
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「帰って頂戴」

彼女のテリトリーに足を踏み入れた途端、有無を言わさぬ声で発せられたその言葉。

私は、その言葉を無視して、彼女のベッドに腰を下ろす。

すると彼女は苛立ちを露にしてこちらを睨み付けて来た。

「……何しに来たのよ」

「もちろん、カトレアさんに会いに」

あぁ、どうしようか。

笑みが止まらない。

だって、あまりに予想通り。

彼女の返答も、表情も。

「、そう」

「つれないですねー。もっと構ってくれてもいいんじゃないですか?」

「……どうして私が」

「恋人、だからです」

す、と彼女の柔らかな髪に手を伸ばす。

艶やかな触り心地のそれは、光をキラキラと反射して、とても、綺麗だ。

髪を辿って彼女の頬に触れる。

こそばゆそうに瞳を細め、身を捩るが、完全に拒絶することはしない。

くすくす、と、堪えきれずに声を漏らした私をじ、と見つめ、嘆息。

それにまた、笑みがこぼれる。

しくったなぁ、自分から、シナリオを壊してしまった。

それでも、楽しいのは何故だろう、きっと彼女に触れてるせいね、絶対、そう。

「……アナタって、ヘン、だわ」

「知ってますよ。まぁ、私からしたらカトレアさんだって、ヘン、ですけど」

「……知ってる」

「ふふ、私たち、似てるんですね」

どんどん私の予定から外れていってしまっているけれど。

物語はこの方が楽しいのかも、しれない。

カトレアさんはふと考えるように瞳を伏せた。

それから、頬に触れていた私の手を、少し離して。

静かに、唇を落とした。

左手の薬指、所謂、婚約指輪を嵌める位置。

「、カトレアさん?」

驚いて彼女を見れば、少しだけ口角を上げた。

「驚いたかしら」

「……えぇ、とっても」

驚いたどころの話じゃない。

最初から、私がなぞっていたのは自分のシナリオじゃなくて彼女のそれだったんだ、わ。

その事に気付かなかったなんて、なんて失態。

「狡いですね、カトレアさん」

「アナタがいつもしていること、でしょう」

ふふ、と彼女が溢した声は、私の耳に反響した。

仕方ない、か。

今日のところは、彼女の話にのってあげることにしよう。


(二人で作り上げる物語はきっと楽しいですね)












企画Wonderful!!様に提出。


2010*12*23


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