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□その笑顔が何よりも
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お嬢様が、ここ最近、夜な夜な何かを編んでいるのは知っていた。
紗音も同じようにしていたから、僕はてっきり、二人でプレゼント交換でもするつもりだと思っていたのだ。
だから、今のこの状況は、予想外だったわけで。
「あの、これ……」
「えーと、その、クリスマスプレゼント。つ、使わないかもしれないけど、一応、貰っといてくれると嬉しい……かなぁ、なんて」
「……ありがとうございます」
お嬢様に呼び出されたのが数分前。
部屋に入るなり綺麗に包装された何かを渡されて、それを開けたら、おそらく彼女の手製であろうマフラーが出てきた。
落ち着いた色合いのそれは、どう考えても、紗音に合うようなものではなくて。
更には真っ赤になったお嬢様の様子を見るに、これは、僕のために作ってくれたもの、なのだろう。
よくよく考えたら分かることだったのだ。
編んでいる途中に僕が部屋に入ると、お嬢様はすぐにそれを隠したし。
実際その時は、紗音にどのようなものを作っているかバレないようにするため、なのかと思っていたのだが。
そもそも紗音だって何か言ってくれればよかったんだ。
クリスマスにプレゼントを貰うだなんてあまりに無縁な話過ぎて、自分が渡すだなんてことはすっかり失念していた。
「、あの、すみません」
「あーーっと、ストップ!!」
自分が何も用意してないことを詫びようとしたら、お嬢様が盛大に遮ってきた。
とりあえず頭を上げると、気まずげに頬を掻くお嬢様の姿。
「いや、あの、さ。多分嘉音くん、プレゼント用意してないからって言おうとしたんでしょ?」
「え、まぁ」
「だからさ、勝手で悪いんだけど……ていうか事後承諾になるんだけど。今日一日、私と過ごして欲しいな……と」
「あの、でも仕事は」
「……私がさ、母さんに頼んで、もう外してもらってる」
ごめん、と苦笑いするお嬢様に、やっと納得する。
それで事後承諾、と。
お嬢様からしたら、僕の時間を取ることがプレゼントになるらしい。
別に、言ってくれれば時間を割くことぐらい、いつでも、というわけにはいかないにしろ、ある程度は出来るのに。
それに、今日一日お嬢様と過ごすだなんて、僕にとってもプレゼントのようなものだ。
結局は、僕が貰ってばかりになってしまう。
「……九時、ですか」
「?」
時計を見れば、九時を少し回ったところ。
たくさん、とは言いがたいが、時間はある。
「今から、船出してもらえますかね」
「言えば、多分……って、へ?」
「出掛けませんか?あまり遠くには行けませんが……。何か僕もプレゼント、したいですし」
そう言えば、お嬢様は真っ赤になって首を振った。
「え、いいよ!!嘉音くんと過ごせるだけでプレゼントみたいなもんだし」
「それは、僕にとってもそう、ですから」
「え、あ、」
「僕ばっかり貰っていては申し訳ないですから」
「、うん」
行かせてください、と言えば、お嬢様は小さく頷いた。
それから、何か慌てたようにベッドから立ち上がる。
「あ、でも、ちょっと待って。服着替えたい」
「そのままでも構いませんよ?」
というか、時間がそうあるわけではないので、できるだけ早く出掛けたいというのが本音だ。
「、でも折角の、で、デート、だし」
そう主張するお嬢様の気持ちも分からないわけではないけれど。
僕は一つ小さく嘆息して、お嬢様を抱き締めた。
「ふぇ!?かかか嘉音く、」
「お嬢様は、そのままでも十分……その……可愛い、と、思います」
正直、恥ずかしくて言うことを躊躇った。
いくら本音だといえ、だ。
あまりこういうのは、得意じゃあ、ない。
けれど。
それでお嬢様が頷いてくれたし、いいということにしよう。
(その上、僕の大好きな笑顔を見せてくれた、から)
2010*12*24
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