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□これだけで幸せ
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「おい、祐希」
二人で買い物の最中、新作ゲームが置いてあったのでふらりとそこに立ち寄れば、がしりと首元を掴まれた。
「ちょっ、首しまるんですけど、」
「そっちに肉やら野菜があるんですか」
「そんなものよりいいものがありました」
そう言い、彼の手から抜け出し、再び棚に近付こうとしたら、頭をスパーンと叩かれた。
ジンとした痛みが走るが、それに慣れつつある自分に、なんだかなぁと、思ってしまう(まぁ、十何年もこうされていれば、ね)。
「早くしねぇとあいつらうるせぇだろが」
眉根を寄せてそう言う要は、きっと帰ったあとの千鶴の様子でも想像しているのだろう。
場所は所謂大型スーパー。
俺たちは今、夕飯の買い出しに来ていた。
いつもながらのただの思い付きで、寒いから鍋をしよう、という。
買い出し係が俺と要なのは皆が俺たちに気を使ってくれたというわけでは決してなく、単に俺と要がジャンケンで負けてしまったからだ。
はぁ、とため息を吐く要に、少しだけ悪い気もする、けれど。
(……楽しい、かも)
最近は、五人でいることが多かったから。
もちろんそれはそれで楽しいのだけれど、やはり、二人で過ごす時間も欲しかったり。
その時間を引き延ばすためだけに、こんなことをしているのは、流石に多少バカみたいだとは思うけど。
仕方ないとも思うのだ。
俺は、要のことになるとおかしくなるぐらい、バカみたいに要のことが好きだから。
そんな俺の想いに気付く筈もない要は、苛立ちを露にして、俺の手を引っ付かんだ。
その瞳には、呆れの色。
けれども何処か楽しそうだとも感じるのは、俺の勘違いじゃない、のかな。
「全く、ガキかてめぇ」
「要は、お母さんみたいだよね」
「あぁ!?」
「冗談」
自然と繋がれた手に、どうしたって笑みが溢れてしまう。
それを隠すために、軽口を叩いてみたり。
ほんと、要って堪らない。
いつもは手を繋ぐと真っ赤になっちゃうくせに、無意識でこういうことしてくるんだから。
……まぁどうせ、数分したらこの手も振り払われちゃうんだろうけど、ね。
2010*12*26
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