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□次の時まで
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どうしたって、第三のゲームでのことが、忘れられなかった。

屈辱的な記憶だから、というだけでは恐らくない。

恋だとも断じて言わないが、私はあのときから奴が気になって仕様がなくなっていたのだ。

(……馬鹿みたいだ)

もうすぐ親族会議の季節。

幾度、繰り返されるのだろう、このゲームは。

もちろん楽しくはあるが、たまに面倒くさく感じるときもある。

まぁ、主であるベアトリーチェ様には、決してそのようなことは言わないが。

留弗夫は仕事の真っ最中であった。

遊び呆けているイメージばかりが先行していたが、案外真面目なところもあるらしい。

そんなことを考えてから、一人自分に失笑する。

何を、しているのだろう私は。

例え私が此処にいたって、留弗夫は私に気付かない。

……もし、気付いたならば。

私は警告するつもりだった。

今年は六軒島に行くな、と。

それを言ったところで、彼が耳を貸すとも思わないが。

つまり、言うならば私の自己満足。

ゆっくりと、留弗夫に近付いてみる。

周りのニンゲンは一切私を見たりしない。

分かっている、けれど。

「ん?」

「……っ」

あと数歩、というぐらい近付いたところで、彼がふと振り返った。

思わず足を止めてしまう。

らしくもなく、自分の身体を緊張が走るのが分かった。

しかし、それはすぐに落胆に変わる。

「……気のせいか、」

後ろ手に頭を掻きながら、そうごちる留弗夫。

分かっていたじゃないか。

自分自身に対して苛立ちが募る。

何を、期待していたんだ、と。






―――――――――――


そうして、また、この季節がやって来た。

結局彼はゲーム盤の上。

そこにいる彼の死を、止めることなど、出来るはずもなく。

かつん、自分の足音が耳に響く。

最期を見たい、だなんて、嗚呼、私はいつからこんな。

「……誰、だ」

留弗夫はもう既に間際だった。

助けることなど、出来ない。

仮に出来たとしても、それは許されない。

「……お前、何処かで会ったこと……あるか?」

「、いや」

「そうか、でも、感じたことあるぜ、この気配」

それは、戦ったあのときのことなのか、それとも。

どちらにしても、確かな記憶ではないだろう。

くくっと苦笑いをする留弗夫に、何故だか胸が痛んだ。

「姿、見えないんだけどな。いい女だってのは、分かるぜ」

留弗夫の瞳は、それとして機能していなかった。

むしろ、今生きているのが不思議なようなものだ。

それでも、普段と変わらぬような軽口を叩く彼に、思わずため息をついた。

「お前は本当に、最期まで」

その場に片膝を付き、留弗夫の手に触れる。

ここに右代宮霧絵が居なくて良かった。

そんな風に考えている私はもう、きっと留弗夫に想いを寄せかけていた。

「優しいな、お前敵なんだろ」

「死にかけの貴様には関係のないことだ」

「それもそうだ。……は、もう少し早くに出会えたら、口説けたのによォ」

「……そう、だな」

これを幸せだ、なんて言うつもりはないが。

嬉しいと思うのもまた事実だった。

留弗夫の手の力が弱まる。

さようならの言葉は、言わなかった。

否、言うのを躊躇った。

ここで終わってもどうせまた、次のゲーム盤で会えるのだ。

それは、嬉しくもあり、辛くもあり。



(願わくば、次の時は私の手で彼を終わらせることが出来るようにと、)













2010*12*27


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