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□愛し愛される運命
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運命、だったんだよ、きっと。

そんな安っぽい言葉で僕は笑ってみせた。

「運命、ねぇ」

それを聞いた染岡くんは、興味なさげに本に視線を落としたまま呟いた。

僕はそれが、なんだかとても気にくわなくて、彼の手から本を取り上げる。

染岡くんは、あ、と声を漏らしたけれど。

そもそも彼が読書家でないことを僕は知っているし、この本を開いたのだって、沈黙に耐えかねただけであって、続きがどうしても読みたかったわけではないことも知っている。

実際、ページは殆んど動いていなかったしね。

「ね、染岡くんはどう思う?」

首を傾げて問えば、染岡くんは面倒くさそうに溜め息。

酷いなぁ、僕は至って真剣なのに。

「運命、っつーのが、そもそもよく分からないからな」

空を仰ぎ見るようにしてそう言った染岡くんに、思わず頷いてしまう。

確かにね。

運命ってなんだろう。

出会うべくして出逢ったというのなら、それは必然だ。

だったらもしかすると、ねぇ、必然と運命って同じなのかな。

そしたらやっぱり、運命、だよね。

そっちの方がロマンチックだ。

「ふふ、うんめい、なんだね」

「なんだお前気持ち悪いぞ」

「染岡くんと出会えてよかったなぁ」

「、」

ね、と言って彼を振り向けば、視線を反らされてしまった。

僕は彼の真正面に座り、彼の顔を僕の両手で固定する。

そうすれば嫌でも合ってしまう僕たちの視線。

染岡くんは何処を見ればいいのか分からないみたいで視線をあっちこっちに泳がせた。

僕を見てって、そのつもりでこうしているのに。

どうして分かってくれないかなぁ。

「染岡くん」

「……なんだよ」

あぁ、やっと僕をしっかり見てくれた。

嫌そうな顔はするのに、離せと言わないあたり、染岡くんは優しい。

「好きだよ」

「あぁ」

「君に出会えてよかった」

「それ、さっきも聞いたぜ」

「うん、そうだね」

でも、言いたいんだ。何度でも。

君に出会えたことで、僕は本当の意味で強くなれたんだと、思うから。

君と出会わなければ、こんなに人を愛する心を知ることはなかったと、思うから。

そう考えたら、今の自分がなんだかとても幸せに思えてきて。

体重を染岡くんに預けるようにして抱きつく。

好きだよ、ありがとう、そんな言葉が自分の口から飛び出ていた。

「吹雪、」

僕の名前が頭の上から降ってくる。

そういえば、今日僕の名前を呼んでくれたの、これが初めてかもしれない。

それだけで嬉しくなってしまう僕は、相当に頭がやられているのだろう。

「もしも、俺たちが出会ったのが運命だったら、さ」

「うん」

「出会えてよかったって、変な話だよな」

「……」

その言葉に、僕は少しだけ驚いた。

染岡くんが、そんな感覚的な話に付き合ってくれるとは、思っていなかったから。

嬉しいのに僕は、ひねくれた言葉を発してしまう。

「じゃあ、僕は何て言えばいいの。君に出会えた喜び、なんて表せばいいの」

それは純粋な疑問でもあったのだけれど、そう問えば、染岡くんは押し黙ってしまった。

やっぱり、ちょっと意地悪な質問だったかな。

冗談だよ、僕がそう言う前に、染岡くんが躊躇いながらも口を開いた。

「……好き、だけで十分だろ、そんなもん」

照れているのか、その声はひたすらに小さかった。

僕はといえば、不意打ちでそんなことを言われたものだから、すっかり心臓が跳ね上がってしまって。

狡い、狡いよ、染岡くん。

嬉しすぎて死んでしまいそうだ。

どうやら僕は、思ったよりも彼から愛されているらしい。













21010*12*28


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