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ぱしぃん、と乾いた音が空気を震わせる。

一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

それでも、じんわりと広がる頬の痛みと握り締められた風丸さんの手を見て。

頬を叩かれたのだと、やっと分かった。

「どうして、」

風丸さんは瞳一杯に涙を溜めていた。

それに心が引き裂かれそうになる。

「どうして、あんなこと言ったんだよ……!!」

苦し気な声でそう言う風丸さんに、不覚にも彼の思いの丈を知ってしまう。

風丸さんは、本気で、あの人間の事が好きなのだ、と。

苦しい。

本当なら、応援してあげるべきなのだろうけど。

そんなことが出来るほど僕は大人ではなかったし、人間のことも、やっぱり嫌いだった。

それに、豪炎寺さんと風丸さんが結ばれたって、最後には風丸さんが悲しい想いをするのは、目に見えてる。

僕は、好きな人が傷付くところなんて、見たくない。

「なんで、人間なんかっ」

「だから、そういうこと言うなって」

なんで、人間なんか、なんで、なんで、なんで。

……どうして、僕じゃなかったのだろう。

こんなに、ずっと、風丸さんのことを想い続けてきたのに。

会ってたった数日の人間なんかに、風丸さんが想いを寄せるだなんて。

悔しいのとか、悲しいのとか、色んな想いがごっちゃになって。

泣き出しそうになったのだけど、果たして涙を先に流したのは風丸さんの方だった。

「なんで、あんなこと……っ、言ったんだよ、馬鹿、」

「、」

初めてだった。

風丸さんが、誰かのことを馬鹿だとか言うのを、聞くのも。

風丸さんが、涙を流すのを、見るのも。

どうすればいいか、分からない。

抱き締めたいと、そう思った、けれど、今それをするべきなのは僕じゃない。

ぎゅ、と、拳を握り締める。

行き場のない苛立ちが、僕の中に蓄積されていく。

きっと、誰が悪いわけでもないのだ。

僕が酷いことを言ったのも確かだけれど、妖怪と人間が結ばれても幸せになれないというのは、紛れもない現実で。

かといって、悔しいけれど、豪炎寺さんが悪いわけでもない。

もちろん、風丸さんも。

「……僕、豪炎寺さんに、謝ってきます」

「、え」

「きっと、まだ上にいると、思いますから」

「なら、俺も、」

「ダメですよ」

泣いた顔、見られたくないでしょう?

そう言って彼の涙を拭う。

風丸さんは小さく頷いた。

……僕は、ちゃんと笑えているだろうか。

いつものように、少しだけ、呆れた風に。

行ってきます、そう言って豪炎寺さんの元へ向かう。

ごめんなさい、風丸さん。

心の中でその言葉を付け加える。

謝りに行くというのは、嘘だった。

もしかしたら、いや、きっと、僕は豪炎寺さんに、風丸さんの想い人に、嫌なことを言ってしまうだろう。

風丸さんに、嫌われるかもしれない。

そう考えるととてつもなく怖かったのだけれど。

風丸さんが傷付くのを見るくらいなら、僕は自分が嫌われる方がマシだと思った。














2010*12*30
 

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