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□少しだけ長いキスをした
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チェレンは無駄に規則的な生活をしている。
もっと遅くに起きてもいいのに、朝の七時には必ず起きるし。
……まぁ、それは春夏秋の話で。
冬になると途端その生活リズムは崩れ出すのだった。
「……あと五分」
「それ繰り返して、もうかれこれ三十分は経ってるんですけど」
もぞりと布団の中で動いたチェレンにそう言う。
「いいじゃないか。別に今日予定ないし」
呟いたチェレンの声は眠くて呂律がうまく回ってない……ということは決してなく。
単に寒いから外に出ないだけだということをはっきりと表していた。
仕方ないなぁ、そう思って口を開く。
「もう、早く起きないと脱がしちゃうぞっ」
「……レパルダス」
チェレンは冗談を冗談と受け取ってくれなかったらしく、布団の中からぽいとモンスターボールを投げた。
にゃおおん、と低く鳴きながら、その姿を現すレパルダス。
なんで布団の中にモンスターボールがあったのか不思議だが、それよりも足元で威嚇してくる猫が俺の恐怖を煽る。
「……え、チェレン、これどうしろと」
「ぼくの代わりに遊んでもらいなよ」
「えっ、こいつ遊ぶとかそういう雰囲気じゃないんだけど」
つーかなんでチェレンのレパルダスは俺になついてくれないのだろう。
それは前々から不思議だった。
自分で言うのもなんだが、俺はどちらかというとポケモンになつかれやすい方だと思う。
しかも、俺はチェレンの恋人な訳で。
敵でもなんでもないんだから、普通ならなついてくれるはずだと。
と、そこまで考えたところでふとある考えが浮かぶ。
逆に、恋人だからとか。
悪意はないにしろ、チェレンを(ベッドの上で)泣かせたりしていることもあるし。
「レパルダス、ひっかいていいよ。全力で」
「うわっ、なんで!!ていうか本気であぶなっ」
「変なこと考えてただろ!!」
「俺声に出してないよね!?」
「顔に出てるんだよこの馬鹿!!」
おかしいな俺ポーカーフェイスには自信あるのに。
とか思っている間にもレパルダスは俺をひっかこうと手を振り上げている。
暫く逃げ回っていると、漸くチェレンはレパルダスをモンスターボールに戻した。
「……人の部屋で騒がないでくれる」
「誰のせいだと!!」
はぁ、とため息をついたチェレンは、やっと外に出る気になったのか、身体を起こした。
チェレンがベッドから降りる前に、俺はベッドの上に乗り上げる。
チェレンの足の上に座れば、彼はあからさまに嫌そうな顔をした。
「……何」
「レパルダスで俺を苛めてきた仕返し」
そう言えば、チェレンは俺が何をしようとしているのか読めたらしく、俺の肩を掴んで身を捩った。
そんなんで逃げれるわけもないのに、ね。
それに、俺の肩を掴むなんて逆効果。
俺はそのままチェレンを抱き締めた。
すると、聞こえてくるのは諦めたようなチェレンのため息。
「どしたのチェレン、今日はいやに大人しいね」
「嫌がって欲しかったわけ?」
「そうじゃないけどさ、」
なんかちょっとつまらない、だなんて言ったら、殴られそうな気がしたから言うのは止めておいた。
「……寒いから、」
「ん?」
「……寒いから、少しメンドーだっただけだよ」
逃げるのが、ね、と付け加えるチェレンに、あぁそういうことか、と納得する。
今日はチェレンの気分が乗ってる日らしい。
甘えたい日、と言った方がいいのかな。
それは、他の人には見せない、恋人だからこそ見れるチェレンの一面だった。
真っ赤になるチェレンが堪らなく愛しくて。
口づけを落とせば、彼は嬉しそうに目を細めた。
(そんな表情してるなんて、本人は気付いていないのだろうけど)
タイトルはM.I様より。
2011*01*01