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□君が吸い込むものの名は
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例えば、あまり練習で身体が動かなかったとき。
俺は自分の無力さが堪らなく悔しくなって、そのあと一人で練習するのだけれど、そういうときに限って必ず、全てが上手く行かなくなる。
思ったようにボールが動かなくて、悔しくて、腹立たしくて、泣きそうになったときに。
いつも彼は現れるのだ。
「マーク!!」
そう、名前を呼んで、それから俺を、強く抱き締める。
「……ディラン」
「全く、どうしてマークって、見つかりにくい場所で練習するわけ?」
少し怒ったように、そう言うディランに、お前に見つからないようにだよ、と心の中で呟く。
こうされたら、甘えてしまいたくなるのが分かっていたから。
まぁ最終的にいつも見つかるんだけど。
「何でディランは、俺の居場所が分かるんだよ」
「何でって……なんとなく」
「なんとなく?」
「マークだったらどこに行くかな、って考えながら探してたらさ、見つかるんだよね」
耳元でそう言われて、心臓が煩いぐらいに音を立てる。
余計なお世話だ、とか、少し思わないでもないけれど。
俺のことを考えてくれているのだと思うと、嬉しくなった。
「……マーク、無理はしないでよ」
「無理なんて、……いや、してるかもしれないけど。でも、そのくらいじゃなきゃダメなんだ」
もっと、強くならないと。
俺は、アメリカ代表のキャプテンなんだから。
ぐるりと身体を反転させられる。
いつもながら目は見えていないけれど、怒っているのは分かった。
「マークのバカ!!それで体調崩したらどうするの!!」
ずいと迫られ、思わず言葉に詰まる。
ディランは更に言葉を続けた。
「マークが調子悪いときはミーがカバーするから」
「、でも、それじゃ」
「だからマーク!!ミーから離れないでよ!!」
「……っ」
半ば叫ぶように。
ディランは俺の腕を掴みながらそう言った。
正直、話が繋がっていないと思うけど。
真剣な顔してそんなことを言われれば、否応なしに顔に熱が集まってしまう。
そんな俺の様子を見て、ディランも何を口走ったのか気付いたのか急に手をばたつかせた。
「あぁ、いや、今のはそういう意味じゃなくて、いや、そういう意味でもあるんだけど、」
「……ぷっ」
慌てふためくディランが面白くて、思わず吹き出してしまう。
堪らず声を出して笑えば、ディランはもう!と声をあげて俺を引き寄せた。
「、ディラン?」
「そんなに笑わないでよ」
「……悪い」
「ミーはマークがいないと落ち着かないんだよ」
「分かったから」
恥ずかしいこと言うなって、と漏らせば嫌だと返された。
ディランは照れたように笑いながら言う。
「マークにミーの気持ちが伝わるまで言い続けるからね!」
何言ってるんだか、と嘆息。
そんなの、もう伝わってるに決まってるだろ。
「ディラン」
「何?」
「……俺も、」
ディランのこと大好きだ、と小さな声で呟けば、ディランはぱちくりと目を瞬かせた(気がした)。
「まっ、マーク!!」
「な、んだよ」
「結婚式はいつあげようか!!」
気が動転しているのかそれとも本気なのか。
普段の様子からするに後者な可能性も捨てきれないが。
とにかくそんなことを言われ、顔から火が出そうなくらいに恥ずかしくなった。
どうしてこいつは、こういうことを平然と言ってのけるのだろう。
呆れると同時に思わずまた、笑い声を漏らしてしまう。
さっきまでの自分の苛立ちが嘘みたいだ。
ふつりと切れたような緊張感に、なんだか幸せな気分になった。
タイトルは虚言症様から。
2011*01*03