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□大事なのは言葉じゃなかった
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好きだと言った。

そうすれば彼も、好きだと返した。

その微笑みは、いつもと変わらず。

最初の頃は、それでもよかったのだ。

否、まだ、彼の微笑みの違和感に気付いていなかった。

俺を好きだと言うコーンさんの笑みは、バトル中のそれと大差ない。

普通だったらもっと、照れるなりなんなりするはずだろう。

勝手な偏見かもしれないが、俺はそう思っていた。

「……好きです」

「えぇ、コーンもですよ。トウヤくんのこと、好きです」

小さく笑うコーンさんに、少しだけ罪悪感を感じながらも、口を開く。

「本当、ですか?」

そう言えばコーンさんは驚いたように目を見開いて。

それから、困ったように眉根を寄せた。

本当、ですよ、と戸惑いながら言ったコーンさんに、ぐいと詰め寄る。

コーンさんが一歩下がれば、空いたテーブルにぶつかった。

それを良いことにまた、俺は一歩足を踏み出す。

これ以上下がることの出来ないコーンさんは、びくりと身体を縮ませた。

「……トウヤくん?」

「俺は、コーンさんのこと、好きです」

「、は、い?」

「愛してる、って言った方がいいかも知れませんけど」

そう言った瞬間。

今まで好きと言われても平然としていたコーンさんの顔が、真っ赤に染まった。

茹で蛸さながらのその顔に、手を伸ばせば、ぎゅうと目を瞑る。

(……どういうこと?)

それは、初めての反応だった。

コーンさんはわりとどんなことでも涼しげな顔で甘受けしていたのに。

そういえば、と思い出す。

今まで俺は、愛してるなんて言ったことないかもしれない。

試しにもう一度愛してますと言ってみれば、コーンさんは恥ずかしさからか涙目になって、そしてそれから、止めてください、と呟いた。

「どうしてですか」

「そ、そんなの恥ずかしいからに決まっているでしょう!!」

真っ赤になって叫んだコーンさんに、今度こそ確信。

しかしどうして、好きはよくて愛してるがダメなのか。

訊いてみれば、ふいと顔を逸らしてぽつりと言った。

「好き、なら、言われなれてます、から」

誰に、とは訊かなかった。

それは親衛隊の彼女たちであったり、兄弟である彼らだったりするのだろう。

だけど、だからといって。

俺の好きと他人の好きが、コーンさんにとって同一であることは少なからず俺を傷つけた。

「……コーンさんは、俺のこと好きなんですか?」

「だから、何度もそう言って、」

「その好きは、貴方が他の人に抱く好きと同じなんですか!?」

堪らず語尾が強くなってしまう。

そんな俺の剣幕に圧されたのか、コーンさんは今にも泣きそうな顔で首を横に振った。

怯えきっているその姿に、今更ながら心が痛む。

落ち着くためにこっそりと深呼吸をして、コーンさんを見つめれば、彼は不安げに俺を見つめていた。

「……すみません」

「な、どうして謝るんですか」

コーンの曖昧な態度がトウヤくんを傷つけていたんですよ、ね?

あぁ、どうしたらいいんでしょう、と口に出すコーンさんに、なんだかとても申し訳ない気持ちになった。

少し背伸びをして、コーンさんに口付ける。

触れるだけで離れれば、コーンさんは唖然とした表情で。

「疑ってすみません。コーンさんは、俺のこと、ちゃんと想ってくれているんですね」

「あ、当たり前、です」

恋人、なんですから、と何故か誇らしげに言うコーンさんが可愛くて。

愛してます、コーンさんはどう、ですか?なんて意地の悪い質問をしたら、途端コーンさんは真っ赤になった。

それでもちゃんと返してくれようとしているのか、何度も口を開いたり閉じたりを繰り返す。

躊躇いは消せないようで、最終的に出てきたのは、「大好き、です」なんて、少し妥協した感じの言葉だったのだけれど。

照れた顔は何にも替え難い程愛らしくて。

大好きと愛してるの誤差の分なんて、それだけで十分埋まるのだった。














2011*01*04
 

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