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□追いかける先は
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どうすればいいか、分からなくなっていた。

本当の強さを手に入れたくて、だけどそれが何なのか分からなくて。

思い詰めて、張り裂けそうになった自分の心をもて甘した末、頭を冷やすつもりで雨に濡れていたら、幸か不幸か、アデクさんがそこを通りかかったのである。


「何をしておったのだ、あんなところで」

ため息混じりにアデクさんは言った。

場所は、古びた小さな山小屋。

パチパチと火を飛ばす炎の前にぼくは連れてこられた。

びしょ濡れになったぼくの洋服は、少し離れたところに干してある。

鞄の中に入っていた代えの洋服も、当然使い物にはならなくて、そこに並んでいる。

そんな訳で、今ぼくが着ているのは自分自身のものではない。

小さくなって着れなくなったというアデクさんのTシャツにズボンは、それでもぼくにはサイズが大きく、ありとあらゆるところが余っている。

そんなにここで動く訳でもないし、タオルにくるまるよりはマシだろうということでこれを着ているのだが。

アデクさんの香りがいやに鼻をくすぐるため、正直さっきから気恥ずかしくてならなかった。

「なにって、言われても……少し、頭を冷やしたくて」

それを誤魔化すために、目前の炎に集中する。

しかし、あまり面白くない上に、なんだか目に痛かったのですぐに止めた。

「それにしたって、風邪でも引いたらどうすもりだったんだ」

ぼくにココアを手渡しながら、柔らかい声でアデクさんは訊ねてきた。

「……そこまで考えてませんでした」

いただきます、そう小さく呟いて、ココアに口を付ける。

温かいそれが、胃の中にじんわり広がるのが分かった気がしたのは、身体が冷えきっていたせいか。

甘いものはあまり得意ではないのだが、何故だかとても美味しく感じられた。

「チェレン、お主は、もっと自分を大切にするべきだ」

「、」

「自分を大切にしないトレーナーが、ポケモンを大切に出来る筈ないだろう?」

「っ」

穏やかに言われたその言葉は、胸に突き刺さった。

不意に、涙が沸き上がってくる。

まるで、ぼくの張りつめた心を、アデクさんに溶かされていくような、錯覚。

涙は溢したくなくて、そしてそれを悟られたくなくて。

小さく深呼吸しながらココアを流し込むが、しかしどうして、アデクさんはあろうことかぼくを抱き締めてきたのである。

「、あの」

その体温に、そして洋服なんかとは比べ物にならないくらいの彼の香りに包まれて、急に心臓が煩くなる。

戸惑いを隠せないでいるぼくに、アデクさんは優しく囁いた。

「無理はしないでくれ」

ぼくのを身を案じているだけじゃない、何かもっと切なさを孕んだそれに、さっきとは違う意味で、胸が苦しくなる。

きっと。

きっと、アデクさんは、長く生きている分だけ、そして、チャンピオンとして、ぼくなんか到底及び得ない程のものを背負っているんだろう。

稀に垣間見えるそれを、ぼくは深く知りたいと思うけれど、いつも聞くのを躊躇ってしまう。

それを聞いたところで、ぼくに何が出来るんだと、そういう思いが心を過る。

「アデクさん、ぼくは、強くなりたい」

「……あぁ」

「強く……貴方を支えられるくらい」

「、チェレン」

アデクさんは一瞬、驚いたような顔をしたけれど、すぐに笑顔になって。

ありがとう、そう言いながら静かに微笑むアデクさんこそが、ぼくの求める強さを持っているのだと、そんな気がした。














2011*01*07
 

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