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□愛情表現なんかじゃなくて
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バダップといえど、部屋の中では少々気が緩むらしい。

アポなしで部屋に突撃、彼を組伏せることがあっさりと出来てしまった現状に、オレは拍子抜けしていた。

この状態なら、蹴ろうと思えばオレを蹴ることは容易い筈なのに、何故かバダップは何も言わずにただオレを見つめている。

不愉快だ。

その、何もかもを見通すような瞳が。

苛立ちに任せて、彼の服のボタンを外す。

上着をはだけさせれば、タンクトップに覆われてはいるものの、鍛え上げられ引き締まった身体が露になる。

流石に抵抗されるだろうと思っていたのだが、依然として、バダップは動かないまま。

……もしかしたら、彼の方もオレの様子を窺っているのかもしれない。

そんな考えが頭をよぎるが、だからといってなんだというのか。

自分で自分の考えを嘲笑ってから、彼の首筋に噛みついた。

褐色の肌にうっすらと浮かび上がる、鬱血。

そこを舐めれば、バダップはぴくりと身体を揺らした。

「……もしかして、感じたの?」

言いながら、もう一度同じことをしてみる。

するとやはり、バダップは身体を震わせた。

今度は少しばかり息も出ていた。

「……何がしたい」

ここにきて初めて、バダップがオレに問いかける。

オレは出来る限りの妖艶な笑みを浮かべて、言ってやった。

「どう?男に押し倒される気分、は」

「……こんなことをしてなんの意味がある」

「ふふ、だって、屈辱的だろう?こうされるの」

言いながら彼のタンクトップをまくりあげ、身体に触れる。

浮き上がった筋肉をなぞるように触れれば、バダップは、唇を結んだ。

どうやらこいつは意外にも、感度がとても良いらしい。

「声、出しちゃえばいいのに」

「、っ」

「は、強情」

そう言い、彼の顔を見る。

「……」

バダップは、オレをじっと見つめていた。

少しだけ眉を寄せてはいるが、その様子は、普段と大差ないように思える。

「……むかつく」

もっと屈辱に歪んだ顔が見たかった。

オレは今、分かってしまった。

この行為を進めても、オレの求めているような表情は得られない。

「つまんねぇ」

萎えた、そう言って彼の上から下りる。

元々盛ってもいなかったけれど。

部屋を出ようと回れ右をしたとき、彼がオレの腕を掴んだ。

「……ミストレ」

「んだよ」

「何故今のような事をした」

「さっき言ったじゃん。あんたに屈辱的な思いをさせたかっただけ」

ま、意味無さそうだから止めるけど。

そう言うも、バダップは、まだ話は終わっていないという風にオレを見ている。

何か言いたいんなら言えばいいだろうに。

オレはその様子に腹が立って、彼のタンクトップを引っ付かんでオレの元へ引き寄せた。

身長差のせいもあり、不意にさっきつけた痕が目に飛び込んでくる。

オレは彼を睨み付けながら、それでも口元には笑みを称えて、言った。

「……それとも、何。オレがあんたの事を好きだとでも?」

「……まさかとは思うが。そもそも俺は抵抗しなかったのだから、俺の優位に立ちたいだけならあんな方法じゃなくてもよかったはずだ」

彼の言っていることは、ある意味正論ではあった。

しかし、そんな正攻法ではオレがやられるということが目に見えていたからこんな手段を使ったのだ。

「じゃあなんで、抵抗しなかったわけ?」

一応、と思って聞いてみる。

バダップは考える間もなく、答えた。

「殺意を感じなかったからだ」

「はっ、なんだそれ」

彼にとっての危機とは、命に関わることしか入らないらしい。

ここまで来ると真面目すぎて常識が欠如しているんじゃないかと思えてくる。

そんなオレの思いをよそに、彼は大真面目な顔をしながら突っ立っている。

「ねぇ、さっきさ。オレがあんたの事を好きだとでも思ったわけ、って言ったよな」

「……あぁ」

にやり、と。

今のオレはきっと性格の悪そうな顔をしているんだろう。

オレは少し背伸びして、彼の唇にオレのそれを押し当てた。

キスというには乱雑な、肌の接触。

「……もし、好きだって言ったらどうする?」

今度は可愛らしい微笑みを浮かべて。

彼に笑いかけてから、くるりとターン。

今度ばかりは彼も引き留めはしなかった。

(……ざまあみやがれ)

部屋を出る直前にちらりと視界の端に捉えた彼の顔は、普段の彼からは想像が出来ないような間抜け面だった。














2011*01*09
 

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