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□譲れない
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彼がキラのことを好きなのは知っていた。

俺はキラが他のやつになびくだなんて毛ほども考えていなかったので、あまり気にしてはいなかったのだが。

俺とキラが付き合っていると言うのを知らないやつはいないはずだった。

もちろんシンもそれを知っていたから、まぁ下手なことはしないと踏んでいたのだが、その考えは甘かったらしい。

シンは俺がいない時を狙って、キラにアタックしまくっていたのだ。

いくらキラがなびかないとはいえ、そんなことを聞いて平然とはしていられない。

苛立ち混じりにキラの元へ向かう。

執務室の扉を開けば、タイミングのいいことに、そこにはシンもいた。

しかも今まさにアタック中だったらしい。

シンの両手はキラの両手を確りと握り締めている。

呆然としている二人に俺は黙って近付いていき、キラの手からシンの手を外した。

そのままぎゅ、と後ろからキラを抱き締めるようにすれば、ようやく頭が動き始めたらしいキラが声を荒げた。

「ちょっとアスラン……来るなんて聞いてない!」

「来ちゃダメだったのか?」

「むしろ助かったけどそうじゃなくて!」

「助かった?へぇ」

自分でも驚くほどの底冷えした声が出る。

キラはまずいというように視線を逸らした。

「……何されてたの?」

有無を言わさぬ声で問いかければ、キラは気まずげに視線を泳がせながら呟いた。

「……シン君に……告白……されてた」

「それだけ?」

「……キス」

ぽつりと聞こえた小さな声に、腸が煮えくり返るような感覚。

シンを睨み付ければ、彼は臆することなく睨み返してきた。

「未遂ですよ!」

「そういうもんじゃないだろ」

未遂だろうがなんだろうが。

キスをしようとしたことが問題なのだ。

しかしシンの方はそうは思わないらしく、不満そうに唇を尖らせている。

それどころか開き直ってこんなことを言ってきた。

「いいじゃないですか一回ぐらい」

「信じられないな。よくそれでキラのことが好きだとか言えたもんだ」

「だって、しょうがないじゃないですか。……アスランさんには、勝てないから」

シンは拳を握り締め、吐き捨てるように言う。

妙な空気が、部屋の中に流れた。

「一回キスできたら、それで諦めるから」

「……キラにそう言ったのか?」

俺の質問にシンは答えず、代わりにキラが小さく頷いた。

思わず盛大なため息が口をついた。

キラとシンは視線を落としたまま口を開かない。

気持ちの悪い静寂が、部屋を包んだ。

「……アスラン」

そんな中、キラが俺を呼んだ。

俺がキラを見たのと同時、ぐいと胸元を引かれる。

かと思えば、キラは俺にキスをしてきた。

予期せぬ淡い感触に、目を閉じるのさえ忘れる。

キラは何かに耐えるように、瞳をきつく閉じていた。

唇を離すとキラは、俺のネクタイを掴んだままシンを見遣る。

呆然とした表情のシンをキラは真っ直ぐに見て、言った。

「僕が好きなのは、アスランだから」

だから、ごめん。

そう言ったキラに、シンは未だ、唖然としたままだった。













2011*01*10
 

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