メイン4

□マリンブルーの海
1ページ/1ページ

※年齢操作



『海に行きたい』

そう、綱海さんから電話がかかってきたのは昨日だった。

そして今、俺は沖縄にいる。

ザザァ、という潮の満ち引きの音を身体に感じながら、俺は道を辿る。

中学生や高校生の頃は、この海を隔てた距離が酷く煩わしかったものだ。

今では、一日あれば会える距離だけれど、あの頃はそうもいかなかった。

そんなことを考えながら歩いていれば、すぐに綱海さんの姿は見付けられた。

海辺の岩場に腰かけているその人の元へ駆け寄る。

綱海さん、そう名前を呼べば、彼はこちらを見て、微笑んだ。

この数年で、彼の表情には色気にも似た雰囲気が窺えるようになった。

かといって、昔のような軽快さを失ったわけではない。

彼は岩場から飛ぶように降りて、俺に満面の笑みを向けた。

それは、中学生の時から見慣れたものだ。

「おう、立向居」

その時と違う事といえば、中学生の頃は見上げるようにしていたその笑顔が、今は俺の視線より下にある所だろうか。

「立向居、また身長伸びたんじゃねぇか?」

「そうですかね」

最近は身長なんか測る機会がないからわからない、と言えば、綱海さんはそりゃあそうだよな、と返してきた。

少し視線をずらせば、その透き通るような海の明るさに目が眩む。

「……そういえば、綱海さん、海に行きたいって」

「あぁ、そういえばそんなこと言ったっけな」

ふとここにいる理由を思い出し、口に出してみれば、綱海さんはポンと手を叩いてそう言った。

「……何ですか、それ」

何か大切な事なのかと思ったから、一日で来たのに。

思わず苦笑すれば、綱海さんがぎゅ、と俺に抱き着いてきた。

いきなりのことに戸惑うが、そっと綱海さんを抱き返した。

久し振りのその感覚に、目を閉じる。

綱海さんも同じように感じたのか、久しぶりだな、と小さく笑った。

心地いい波の音が俺たちを包む。

誰かが来るのではないかという考えが過りもしたけれど、別に悪いことをしているわけではないのだ。

堂々としていればいいと思い直す。

きっと、綱海さんは俺と海が見たいわけではなかった。

あれはただ、会いたい、その言葉の代わりだったのだろう。

そう思うと、身体の奥から愛しさが溢れてくる。

「綱海さん」

彼の名前を呼べば、彼は俺を見上げた。

それから、くすりと笑って、人指し指を俺の唇に押し当てる。

「キスは、ダメだぜ」

家までお預けな、と悪戯に微笑む綱海さんに、思わず心臓が高鳴った。

なら早く家に行きましょうと思うのだが、どうやらそう上手くは行かないらしい。

綱海さんは俺の手を握って、海辺を歩き出した。

生憎、そっちは家とは逆方向だ。

文句のひとつも言ってやろうかと口を開きかけたけれど。

彼の上機嫌な顔を見てしまえば、それすらどうでもよくなった。













タイトルは星になった、涙屑様から。


2011*01*11
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ