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□マリンブルーの海
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※年齢操作
『海に行きたい』
そう、綱海さんから電話がかかってきたのは昨日だった。
そして今、俺は沖縄にいる。
ザザァ、という潮の満ち引きの音を身体に感じながら、俺は道を辿る。
中学生や高校生の頃は、この海を隔てた距離が酷く煩わしかったものだ。
今では、一日あれば会える距離だけれど、あの頃はそうもいかなかった。
そんなことを考えながら歩いていれば、すぐに綱海さんの姿は見付けられた。
海辺の岩場に腰かけているその人の元へ駆け寄る。
綱海さん、そう名前を呼べば、彼はこちらを見て、微笑んだ。
この数年で、彼の表情には色気にも似た雰囲気が窺えるようになった。
かといって、昔のような軽快さを失ったわけではない。
彼は岩場から飛ぶように降りて、俺に満面の笑みを向けた。
それは、中学生の時から見慣れたものだ。
「おう、立向居」
その時と違う事といえば、中学生の頃は見上げるようにしていたその笑顔が、今は俺の視線より下にある所だろうか。
「立向居、また身長伸びたんじゃねぇか?」
「そうですかね」
最近は身長なんか測る機会がないからわからない、と言えば、綱海さんはそりゃあそうだよな、と返してきた。
少し視線をずらせば、その透き通るような海の明るさに目が眩む。
「……そういえば、綱海さん、海に行きたいって」
「あぁ、そういえばそんなこと言ったっけな」
ふとここにいる理由を思い出し、口に出してみれば、綱海さんはポンと手を叩いてそう言った。
「……何ですか、それ」
何か大切な事なのかと思ったから、一日で来たのに。
思わず苦笑すれば、綱海さんがぎゅ、と俺に抱き着いてきた。
いきなりのことに戸惑うが、そっと綱海さんを抱き返した。
久し振りのその感覚に、目を閉じる。
綱海さんも同じように感じたのか、久しぶりだな、と小さく笑った。
心地いい波の音が俺たちを包む。
誰かが来るのではないかという考えが過りもしたけれど、別に悪いことをしているわけではないのだ。
堂々としていればいいと思い直す。
きっと、綱海さんは俺と海が見たいわけではなかった。
あれはただ、会いたい、その言葉の代わりだったのだろう。
そう思うと、身体の奥から愛しさが溢れてくる。
「綱海さん」
彼の名前を呼べば、彼は俺を見上げた。
それから、くすりと笑って、人指し指を俺の唇に押し当てる。
「キスは、ダメだぜ」
家までお預けな、と悪戯に微笑む綱海さんに、思わず心臓が高鳴った。
なら早く家に行きましょうと思うのだが、どうやらそう上手くは行かないらしい。
綱海さんは俺の手を握って、海辺を歩き出した。
生憎、そっちは家とは逆方向だ。
文句のひとつも言ってやろうかと口を開きかけたけれど。
彼の上機嫌な顔を見てしまえば、それすらどうでもよくなった。
タイトルは星になった、涙屑様から。
2011*01*11