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□愛情故の
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抱き締めた彼女の身体は、私と同じ女のものだった。
いくら男勝りな言葉遣いをしていたって、いくらスポーツが出来たって、確かにその身体は幾分引き締まってはいるものの、私と同じ作りをしているのだ。
当たり前の事。
けれども、酷く大切に感じるそれ。
「……何をする」
離せ、とキツく睨み付けてくる彼女の瞳は、揺れていた。
彼女は、このようなスキンシップに不馴れなのだ。
「玲名」
「……っ、」
その名前を呼べば、彼女は嫌悪感を露にした。
私が名前を呼んだことに対してではない、名前に対する嫌悪。
一度捨てた名前は、忌み嫌うべきものだと彼女は思い込んでいる。
もう、全ては終わったというのに。
「……玲名」
「やめろ!私の名前は、」
「玲名よ。ウルビダじゃないわ」
「、」
瞬間、彼女の息が止まったようだった。
次第にその顔は歪められていく。
気丈な強さの裏に隠された一面がこぼれ出たのだ。
絶句する彼女の唇に、掠めるように触れた。
ふわりと、二人分のシャンプーの香りが漂う。
玲名は戸惑いがちに私を見上げて、小さく笑った。
「……すまない」
取り乱してしまった、と、少し恥ずかしそうに笑う彼女は、有り体に言えば可憐な花のようで。
その危うげな儚さに私はまた、彼女に惹かれてゆくのを感じた。
彼女が不安定になるのも、致し方ない事だった。
彼女は強くなることが大切なのだと、きっと他の誰よりも信じていた。
それが、裏切られたのだ。
強さは一番大切なものではないと、知ってしまった。
依り代がなくなってしまったのだから、ショックも受けよう。
なればこそ、と私は思ったのだ。
私が、彼女の帰点でありたいと、そう思ったのだ。
そうすることで、彼女が受けた傷が少しでも早く癒えればいいと。
身勝手な願いかもしれない。
きっと自己満足でしかないのであろうことも、薄々理解はしている。
しかし、どうして、この子を手離すことができよう。
私は、自分の都合のいい理由を付けてまで彼女から離れることが出来ない程に、彼女を愛しく思っていた。
2011*01*12