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□馬鹿みたいに願ってる
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じぃと見られ、何とはなしに緊張した。
なんですかと聞いてみれば、うぅんと小さく生返事。
かと思えば、何でもない風に頬に指を滑らせられた。
そのむず痒さに、身じろぎしたくなるけれど、折角彼の方から触れてきてくれたのだからと、ぎゅっと手を握り、瞳を閉じて、それに耐える。
「展」
不思議なもので。
聞き慣れたはずの自分の名前が、彼が発するととても素敵に感じられる。
うっすらと瞼を上げてみれば、彼の顔があまりに近かったものだから、嬉しさより驚きが先行した。
「た、太陽さん!?」
びっくりしながら名前を呼べば、それと同時に頬にキスをされ、思わず一歩後ずさる。
「な、何してるんですか?」
「これぐらいいかなと」
苑さんにもしたことあるし、と、悪戯に笑う彼に、不覚にも赤面。
しながらも、ぐるりと複雑な感情が渦巻いた。
兄さんにもしたことある、って。
太陽さんにとっては大したことではないのか、だけどそういや(女装したときの)兄さんのことは好きだったらしいし、……あぁもう訳がわからない。
太陽さんの突拍子もない行動のお陰で、僕の脳内はすっかりキャパオーバーだ。
太陽さんのこういうところ、本当に狡いと思うのだ。
興味ないふりして、期待させるようなことをして。
しかもそれら全てが計算じゃないからどうしようもない。
……それでも、嬉しいと思ってしまう僕も僕だけど。
一人だけ頭を悩ませているのが悔しくなって、思い切り彼に抱きついた。
そうすれば、彼は目を見開いて、心なしか冷や汗まで出ている。
いつもならそこで太陽さんは逃げるのだけど。
何故だか今日は、そうはせず、かといって此方に手を回してくるわけでもなく、ただただ立ち尽くしていた。
これは、チャンス、かな?
どういう風の吹き回しかは分からないけれど、抵抗されないなら、こっちのものだ。
僕はぐいと彼に顔を近付けてみた。
あと少し。
どちらかが少しでも動いたならば、唇が触れ合ってしまうような、そんな距離。
背伸びした足が、震えた。
数秒間、にらめっこのように顔を見つめあっていたかと思えば、彼の顔が焦点が合わない位間近に来た。
唇の淡い感触に気付いたのは、それが離れてからだった。
「……え、えぇぇええっ!?」
予想外の出来事に思わず叫んでしまえば、太陽さんは照れたように後ろを向いた。
一体どういうことなのかと、聞こうにも驚き続きの僕の身体は言うことを聞いてくれなくて、口がぱくぱく金魚みたいに動くのみ。
端から見たら、相当面白い顔になっているのだろう。
でも、だって、仕方ないじゃないか。
こんなことされたらどうしたって。
(つまるところ、期待してもいいのですか?)
タイトルはM.I様より
2011*01*18