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□その声色の理由が解らなかった
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経験値を上げるために、いつもみたいに草むらを彷徨いて。

少しだけレベルの高いポケモンを倒した、その時、後ろから聞こえたまばらな拍手。

幼馴染みで恋人の彼女が、そこにいた。

「ベル」

どうしたの、こんなところで。

そう問えば、ベルはえっとね、と洩らしながらふにゃりと笑った。

どきりと、心臓が波打つ。

久方ぶりだ。

彼女と、こうして顔を合わせて話すのは。

そう思えば、なんだかこの数歩の距離すらも寂しくなって、私は彼女を抱き締めた。

「会いたかった」

考える前に出たその言葉に、なんだか自分自身で納得してしまう。

会いたかった、そう、会いたかったのだ。

どんなに平気なふりをしていたって、それは本心を心の底に押し込めていたに過ぎなかった。

「トウコ、苦しいって」

知らずのうちに、力を籠めすぎていたらしい。

腕の中からそんな声が聞こえて、私はベルから離れた。

苦しいとは言ったものの、彼女は嫌な顔ひとつせずに、きょろきょろと周りを見回した。

「あれ、トウヤは?」

「今は別行動……だけど」

「そう」

「うん」

なんとも言えない沈黙が二人の間に降りる。

心地いいとは思えないけれど、かといって不快だとも言い難い、そんな空気。

どんな話をすればいいか分からなかった。

今まで、何でもないことを止めどなく話すのが当たり前だった筈なのに、今はそれが上手く出てこない。

「……いいなぁ、トウコは」

ふと、彼女が呟いた。

それはベルなりの会話提供だったのか、それとも。

私はとりあえず彼女の言葉に乗ることにした。

「何が?」

「強くて」

「へ?」

「さっきの子、強そうだったのに。あたしだったら倒せないよ」

「……あぁ」

それはついさっき倒したポケモンのことを指しているのだろう。

予想だにしない話だったから、一瞬理解が出来なかった。

私は思わず苦笑を洩らす。

ベルはきっと、私のことを誤解している。

「私は、強くなんてないよ」

ベルは不思議そうな眼で私を見上げた。

「強くなんて、ない」

「……そう?」

「ん。だってね。本当は私、ベルとずうっと一緒にいたいって思うぐらい、寂しがりやだから」

なんだか指先が冷たく感じて、私は自分の指と彼女の指とを絡めた。

じんわりと広がる、慣れた暖かさにほっとする。

「あたしが言ってる強いって、そういうことじゃないんだけどなぁ」

唇を尖らせてそう言ったベル。

そうだろうとは思っていたけれど。

でも、強いと言われるのは、なんだかちょっぴりむず痒かった。

「心の話で言えば、ベルはきっと私より強いよ」

「え」

それは仕返し一割本心九割。

言葉を受けたベルは、戸惑いがちに目を伏せた。

そんなつもりはなかったけれど、彼女を困らせる言葉だったらしい。

「ごめん」

「あ、ううん。これは、その、違くて」

「え?」

「嬉し、いんだ」

ただ、びっくりしちゃって、と笑う彼女は、確かに嬉しそうだった。

勘違いかとほっとするやらなんだかちょっと恥ずかしいやら。

最終的には恥ずかしさの方が上回って、彼女の肩に顔を埋めた。

そうすれば、ふふ、と小さく聞こえたベルの笑い声。

「そうだったね」

その声は、慈しむようで、懐かしむようで。

なんにしても、脊髄が痺れるような甘い声。

「トウコは腕っぷしは強いのに、恥ずかしがりやで寂しがりやで、チェレンとトウヤに対しては意地っ張りだった」

変わってないんだねと淋しげに呟いた声は、心なしか安堵しているようでもあった。













2011*01*23
 

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