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□正しい繋がり方は
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受け止めることしか出来ないのが、これ程辛いだなんて思いもしなかった。

いくら普段僕を明るく引っ張り回しているとはいえ、五十鈴ちゃんにだって、不安になることがあるのだ。

それを知るのが遅すぎて、知っても何も出来なかった。

「ヒロくん、」

名前を呼ばれた。

いつもなら、心に癒しを与える筈のその行為が、今は僕の心臓を握り締めるように、苦しかった。

こうして彼女がすがり付くようにして抱き着いてくるのは、決まって一誠さんのことを思い出しているときで。

腕は彼女に回すものの、僕は彼女の心までは掬い切れない。

だって、だって、彼を追い込んでしまったのは僕だった。

知らなかったとはいえ、不可抗力だったとはいえ、それは何の紛れもない事実、で。

彼女もそれを判っている筈だ。

なのにどうして。

僕に救いを求めようとするのだろう。

こんなこと、かなめさんにしてくれれば、いいのに。

そんな風に考えるのは、身勝手なのだろうなと思う。

でも、僕にはどうすることも出来ないから。

ごめんなさいと言いたかった。

でもきっと、彼女はそんな言葉望んでいない。

むしろ、傷付けてしまうのではないかと思えば、声になんて出来なくて。

……変わったつもりだったのに、こうしてみれば僕は酷く臆病だった。

「いすず、ちゃん」

優しい声で、名前を呼ぶ。

僕に出来ることなんてそれくらいだった。

五十鈴ちゃんは少しだけ身体を動かした。

「ヒロくん、もっと、」

「、」

「名前、呼んで」

「…………うん」

呟くように哀願されて、僕は素直に頷いた。

五十鈴ちゃん、繰り返し、その数文字を紡ぐ。

恥ずかしくないわけがなかったけれど、それ以上にそうしなければならない気がした。

「ヒロくん、ありがと」

何回繰り返したか、もう分からなくなったくらいのときに、ぽつりと五十鈴ちゃんはそう洩らした。

「僕は、何もしてないよ」

「ううん。ヒロくんは、ボクの居場所になってくれてる、から」

「それは……僕だけじゃないでしょう?」

「へ?」

「かなめさんだって、櫛名田さんも。そう、だよ」

居場所だなんて言われたのがどうしようもなくむず痒くて、そう言えば。

五十鈴ちゃんは、僕をじっと見つめてから、綻ぶように笑った。

「そうだね。うん。そうだ」

その言葉は、僕に向けると言うよりむしろ、自分に向けているようだった。

こんなとき、五十鈴ちゃんが何を考えているのか分かればいいのに、と思う。

分かれば、どうするのが正解か分かるのに、と。

それでも、五十鈴ちゃんは暫くすればいつものように、明るく笑って僕の手を引くものだから。

もしかしたらこれでいいのかもしれないだなんて、少しだけ思ってしまうのだ。













2011*01*25



 

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