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□折角だし、
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無言でひたすらペンを走らせる。

荒々しいガリガリという筆の音だけが聞こえていた室内の中、ケータイの着信音が鳴り響いた。

俺は誰か確認せずに電話に出た。

どうせ電話してくるのなんて、雄二郎か福田組の誰かだ。

「もしもし?」

「あ、ハイ。もしもし」

「おー、新妻くんか。どうした?」

平静を装ってはいるが、実際はペンを取り落としてしまいそうなくらい驚いた。

一応恋人という関係にあっても、仕事柄そんなにしょっちゅう会えるわけではない。

だから、必然的に電話をすることが多くなるのだが、それでも新妻くんからの電話、というのは珍しかった。

(ちょっと落ち着け、俺)

ラブコールだと早とちりしそうになる自分を抑える。

いくら夜の十二時を回っているとはいえ、また他の作家達の話じゃないとは言い切れない。

しかし。

「今、大丈夫デス?」

「あぁ、いや、もう少しで原稿上がるんだけど」

「そうですか。邪魔しちゃ悪いですし、また後でかけます」

「え?ちょ、」

プツリ、切れた電話。

あまりに一瞬の出来事だったから、何が起きたのか理解するのに時間がかかった。

とりあえず、他の作家達に何かがあったとかではないらしい。

まぁよくよく考えれば他の作家の話が新妻くん経由で回ってくることなどほとんどあるはずがないのだが。

そして、急ぎの用事でもないっぽい。

「………え、うわ、」

つーことは、マジでラブコール、なかんじなのだろう。


どうしよう、思ったより嬉しいかもしれない。


ペンを走らせるスピードが上がる。



早く、電話したい。



早く、声、聞きたい。



あわよくば……会いたい。



そう一度思ってしまえば、勝手に動く自分の体。

すぐ頭に血が上って行動に移してしまうのが俺の悪い癖だって雄二郎は言うけれど、今回ばかりはいいだろう。

別に誰に迷惑かけているわけでもないしな。

元々残りが少なかったお陰で原稿はわりと早く終わった。

とりあえずそれを雄二郎に報告して、逸る心を抑えながら新妻くんへ折り返しの電話をかける。

「もしもし?」

うお、早い。

ワンコールで出た新妻くん。

向こうから何か書いているような音が聞こえた。
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