メイン2
□大好きな恋人
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足が速くって、勉強もできて、人当たりもいいから男女問わず人気があって。
そんな自慢の幼なじみ、彼のとなりにずっといられることは俺の何よりの幸福だった。
「円堂?聞いてるのか?」
目の前にはその幼なじみ、風丸の姿。
俺は宿題で分からないところがあったと適当な理由を付けて風丸の家に上がり込んでいる。
そんなことができるのも、幼なじみだからこそ。
でも、いつからだろうな。
風丸に対する感情が、自慢の幼なじみから大好きな幼なじみに変わって。
いつからか幼なじみって単語が、想い人に変わっていたのは。
(まあ、俺と彼が幼なじみだっていう事実は変わらない、のだけれど)
「円堂?」
風丸の両目が俺を見据える。
いつも左目を隠している前髪は、勉強をする際には不都合なようで耳にかけられている。
初めて見るわけではないが、左目が見えている状態なのは珍しく、なんとなく新鮮で、思わず凝視してしまえば、次第に彼の顔に不機嫌の色が見えてくる。
それでも俺は気付かないふり。
「……俺の顔見たって、問題は解けないぞ」
「んー」
生返事をすれば、風丸は諦めたような溜め息をついて、それから耳に掛かっていた前髪を煩わしそうに解放した。
あーあ、もう少し、見てたかったのにな。
そう思いながら視線を風丸から外した。
「宿題はいいのか?」
「風丸の写す」
「……はぁ。それじゃ宿題の意味ないだろ。高校行けないぞ?」
「……高校なぁ」
俺達は中二、そろそろ真面目に考えた方がいいのかも知れないけど、なにぶん一年も後の事なんて想像がつかない。
まぁ風丸も大して考えていないのだろう。
彼はさっきの話を引きずる風もなく宿題を進めていた。
結局後で見せてくれるつもりなんだろうな。
仕方ない、とか言ってさ。
甘えすぎなのは分かっているけれど、この関係があまりにも心地いいものだから、変えようという気すら起こらない。
そうなのだ。
今の関係があまりにも心地いい、だから、自分の想いは伝えられない。
端的に言えば、風丸の一番近くにいられるこの関係を、壊すのが怖い。
ボーッとしながら視界に入ってきた風丸を眺める。
(……あ、ヤバい)
無言の空間、蒸し暑い空気に風丸はうっすらと汗をかいていて、細い髪が二、三本頬に張り付いている。