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□雨のち快晴
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途中から雷門中のサッカー部のマネージャーとなった彼女が他のマネージャーと違う存在になっていったのはいつ頃からだったろうか。

どんなに記憶を辿ってみても、好意と変わるほどの大きな出来事はなかった気がする。

練習や試合のときは一生懸命にやってくれているけれどそれは他のマネージャーでも同じこと。

容姿だって飛び抜けているわけでもないと思うし、ああ見えてアクティブなところもあるが、アクティブさに関しては音無や雷門の方がすごいだろう。

(強いていうなら、)

雰囲気だとか波長だとかそういうものが似ているのかも知れないな、と思う。

「風丸くん」

……ちなみに、その久遠は今の俺の目の前に座っていたりする。

場所は俺の部屋、女子を部屋に上げるのなんて小3の時男女混合の大人数で遊んだとき以来だ。

しかし相手が久遠だからだろうか、想像したより緊張はしなかった。

「なに読んでるの?」

小さなテーブルを挟んで向こう側にいる彼女は、ほんの少しだけ身を乗り出してそう訊いてきた。

「えーと、推理小説、かな」

そう答えながら頭の片隅で昔はよくこのテーブルを使って円堂と勉強したっけな、なんて会話に全く関係のないことを考える。

「好きなの?推理小説」

「特に推理小説が好きって訳じゃないかな。本はみんな、割りと好きだ」

まぁ、そうそう読む時間もないんだけど。

答えながらも視線は文字を追っていた。

普通なら誰かが来ていたら本を読むなんてことしているはずがないのだが、彼女の方が気にしないでと言ったからその言葉に甘えさせてもらっている。

どうも久遠といると素でいてしまうというか、普段しているはずの気配りを弱めてしまう。

それこそが彼女と共にいる理由の一部でもあるのだろうが。

そんなことを思っていると、くすりと久遠の笑う声がして、俺は数十分ぶりに本から顔を上げた。

静かに肩を揺らせている久遠を不思議そうな顔で見れば、彼女はそれに気付いたようで。

相も変わらず色素の薄い髪を小さく震わせたまま、言葉を紡いだ。

「なんだか、私みんなのこと知ったつもりになっていたけれど、そんなことなかったのね」

ふふ、と面白そうに、それでも何処か寂しそうに彼女は笑った。

「私が知っているのはサッカーをしているときのみんな、それだけだよ」

「……、ん、まぁそうだな」

それがなんなのだろうと思わず考えてしまう彼女の言葉に、俺は返す言葉を見付けることが出来なかった。
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