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□黒猫みたいな
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子猫を見つけた。
そいつは俺にてとてと寄ってきたから、俺も触れようと手を伸ばす、すると今度はすたたと少し距離を置いた。
手を出せば離れて何もしなければ寄ってくる、それを繰り返しているうちに、自分が既視感を覚えていることに気が付く。
その天の邪鬼な態度は、愛しい恋人のそれと酷似していて。
なおかつ、真っ黒なその肢体も彼を思い起こせた。
いや、実際彼の肌は真っ白なのだがそういうことではなくて。
そして次にあいつが小動物好きなことを思い起こし、俺は目の前の子猫を持ち帰ることに決めたのだった。
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ドン、と小柄なキャリーバッグを机の上に乗せる。
黒い子猫……名前はクロ(仮)が入ったそれを恭弥は興味なさげに一瞥し、手元の文庫本に視線を戻した。
せめて何か聞くとか、して欲しかったんだが。
「恭弥、なぁなぁこれ見ろって」
「……何」
「いやだからこっち見ろよ」
「今いいとこだから」
「それよりもいいもんなんだって!!」
そう言えば渋々恭弥は文庫本から視線を外した。
……そんなにあからさまに嫌な顔されるとさすがの俺でも少し傷つくぞ、そう思いながらもまた恭弥の視線が外れないうちにと、キャリーバッグの中の子猫に手を伸ばす。
最初に会ったときとは違い、手を伸ばしても抵抗したりしないのは、一週間掛けて手懐けた成果だ。
「ほら、みろよこれ!!」
俺はクロを恭弥の見える位置まで持ち上げる。
すると恭弥は表情には出さないものの興味を持ったようで、文庫本をぱたんと閉じて、俺の方へ来た。
「……ちょっと貸しなよ」
そう言って恭弥は俺の手から猫を抱き上げる。
恭弥が猫を撫でると、猫は嬉しそうに鳴きながら恭弥にすりよった。
……その事に、俺は、驚愕を隠せない。
俺の一週間の努力がなんだったんだってほど、クロは恭弥に対して大人しかった。
そんな俺のショックを知るはずもない恭弥は、ふと俺の顔を見ると、クロを左手に抱えたまま右手の人差し指を俺の頬に乗せる。
「じゃあ、この傷、この子にやられたの」
少し力を入れて押されるとちり、と鈍く痛みが走った。
「あぁ、そうだぜ」
「ふーん」
「……心配してくれたのか?」
「なっ……!!違うよ!!貴方が僕以外の人に傷つけられてるのがムカついただけ!!」
プイと真っ赤になりながらそっぽを向いた恭弥はそのままクロを連れてソファに座った。
そして興味深げに子猫をじっと見始めた。