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□お互いさま
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「源田って優しいよな」
皮肉のつもりで言った言葉に、源田はといえば、そうか?と返しただけだった。
別に深く追及されても困るので、それはそれでいいんだが。
飲みかけのオレンジジュースに手を掛ければ、源田も少し休めていた手を再び動かし始める。
目前の奴が手に持っているのは針と糸。
もっと言えば見馴れた帝国の制服。
源田のそれより二回りほど小さいそれは、源田のクラスメイトの物らしい。
ボタンが取れてしまったのを付けてくれと、何故だかわざわざ源田に頼んだようなのだ。
その上に所々ほつれていたりしたのが源田は気になるらしく、そこまで補正しようとしている。
そんなもの母親にでもしてもらえと思うのだが、あまり親にそういうことを頼みたくない年頃らしい、源田曰く。
まぁそんな源田が他人の制服を持っている経緯なんて、どうでもいい。
重要なのは、今日が学校も部活もない貴重な休日で、しかも俺と源田が二人きりだということだ。
イチャイチャラブラブだなんて吐き気がするようなことまではしたくないが、しかしこう、全く構われないというのも癪に障る。
(……そういえば、こういうこと、何度かあったな)
友人の頼まれ事ならまだいい。
先生の雑用係として休日出勤をしたこともしばしばある。
しかもそれがデートに被っていても断らない。
……これでは、優しいと言うよりお人好しだ。
その悪く言えばお人好し、よく言えば優しい所が源田のいいところだとは思うし、好きなところでもあるが。
……一応、そう、一応、恋人なのだからもう少し俺の事を優先してくれてもいいんじゃないか、なんて。(絶対、口に出したりしないけれど)
「ふぁぁあ、」
源田が制服の直しを終えるまでの暇潰しにと、部屋にあった本を読んでいたのだが、どうも源田の趣味の本は堅苦しくて、眠くなる。
源田の手元のそれを見れば、もう少し時間がかかりそうだったので、そのまま睡魔に身を委ねてしまった。