メイン2

□春、桜。
1ページ/2ページ


ひらり。

目の前を通りすぎたピンク色に僕は外を見た。

そこにあるのは満開の桜。

もう4月だ。

咲いていても決しておかしくはないそれは、綺麗で、思わず目を奪われた。

「キラ」

そんなときにやって来たアスラン。

どうせ彼もおんなじ事を考えているに決まっている。

「すごいね、桜」

「あぁ」

「……綺麗だね」

「……あの時みたいだな」

ほらね、やっぱり。

桜を見て思い出すのはあの時――月でのお別れの時の事。

『……きっとまた会えるよ』

そう言って笑ったアスラン。

僕は、そう、涙を堪えるのに精一杯で。

僕たちの周りには僕たちを見守るように満開の桜がたくさんあった。

「何年前だっけ」

「軽く10年はいくよな」

「……あっという間だね」

僕たちがまだ一桁の年齢だった時の事。

それなのに、その記憶は全く色褪せていなくて。

あの時にもらったトリィもまだまだ元気で、毎日僕の周りを飛び回っている。

「桜を見ると、綺麗だと思うんだけど……それ以上に悲しくなるんだよな」

苦笑しながらアスランは僕の隣に立った。

「……僕も、だよ」

あの別れは、自分の中でもすごく大きな出来事だった。

そのあとに経験した戦争よりも、ずっと。

だから桜を見ると嫌でもあれを思い出してしまって。

アスランがいない春は、いつも涙を流した。

いつからかアスランが近くにいないことを実感してしまう春が嫌いになった。

……でも今は、泣きたくはならない。

それはきっと、隣にアスランがいるから。

あの時みたいな別れが来ることはないって、信じているから。

「今となったらいい思い出かな」

「そうだな」

アスランと目が合う。

そうしてどちらからともなくくすりと笑って。

唇が重ね合わされた。

その瞬間に風が吹く。

桜の花びらが僕らを包む、あの時のように。

きっとこれからも、桜を見る度に小さい頃の記憶が蘇るのだろう。

そしてこれからは、その度にアスランと唇を重ね合わせるんだろうな。

なんとなくそう思って。

それからは、春が大好きになった。







―――――――――――
Next
→あとがき。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ