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□壊れているのは僕、そして貴方
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風丸さんの瞳に溜まった涙がこぼれ落ちた。

それは静かに頬を伝ってゆく。

……あぁ、綺麗、だ。

感情がほとんど消えている瞳から透明な雫が流れ落ちる。

その姿はまるで精巧に作られた人形のようであり、また、壊れかけた玩具みたいでもあった。

その姿を綺麗だと思うなんて、きっと一番壊れているのは僕なのだろう。

風丸さんの中を僕でいっぱいにしたい、それでも、

「……貴方まで壊したくはないですから」

「……?」

「ご飯、持ってきますね」

そう言って立ち上がった、その時。

「みや、さか……っ」

立ち去ろうとした僕の腕を掴む風丸さん。

その手は、小刻みに震えている。

「――……先輩?」

そう問いかけると、「行くな、」と。

ただ一言だけ呟いて手を下ろした。

「……お腹、空いてないんですか?」

「ちょっと、だけど。今は……いい」

「……、」

何て返せばいいのか分からなかったから、黙ってベッドに腰を下ろした。

風丸さんがこうして僕を引き留めたのは初めてなので、どうすればいいかわからない。

風丸さんの意図を読もうと表情を窺い見るも、相変わらず、考えることを放棄しているような暗い目をしていて彼の考えを読むことは出来なかった。

「……風丸さん、どうしたんですか?」

「なぁ、宮坂。……どうして、こんなことするんだ」

怒りも悲しみも含まれていない、ただ事実を知りたいだけといった風な声で風丸さんは言った。

『どうして』、それは、普通だったら最初にするはずの、それなのに今まで風丸さんが一度もしなかった質問。

隠すこともないので、僕は事実を答える。

「好きだから、ですよ」


「……宮坂、俺、宮坂の事、好きなんだぜ?」


またしても何の感情の籠ってない声で、風丸さんはそう言った。

「、」

僕は、突然の告白に頭が追い付かなくて、何も答えられない。

そんな僕を気にすることもなく、風丸さんは続けた。

「……だから、こうされても嫌じゃない」

「怖く、ないんですか?」

「怖いよ」

あっさりと風丸さんは答える。

そりゃ、怖いと思ってないはずはないだろう。

今までだって、風丸さんが恐怖を滲ませて僕を見る姿は何度も見てきた。

……だからこそ、わからない。

「それでも僕の事好きだって言うんですか?」

「確かに怖いとは思ったけど、でも好きなんだ。それに、宮坂へ恐怖を感じる度に、宮坂への想いが増えてくる気がしたから。……むしろ、少し嬉しかったぐらいだ」

「変だよな?」そう言って風丸さんは笑った。

暗い瞳のままで。

その姿は、なんだかとても歪に見えた。

……なんだ。

そこで僕は気付く。




――壊れているのは、彼も同じだったんだ。






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