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□私は貴女が思ってるような女(ヒト)じゃあない
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「ありがとう」そう言われる度に胸に痛みが広がった。


「音無さん、まだ帰らないの?」

「あ、もう少しなんで」

練習をしたあと、対戦相手のデータをまとめていると木野先輩が話しかけてきた。

いつもなら一緒に帰るところだけど、今日は少し時間が掛かりそうだったから、先に帰っていてもらおうと思ったのだけど。

木野先輩は、私の言葉に首を振り、隣に座った。

「……本当に、先帰ってていいんですよ?」

「いいの。私、音無さんがこうしてるの見るの好きだから」

「そう、ですか」

好き、その言葉に鼓動が速まるのを感じる。

別に私自身への言葉じゃないことぐらい、分かっているけれど。

でも、わざわざ一緒に残ってくれたりとか、やっぱり少し期待してしまう。

「……音無さんって凄いよね」

「何がですか?」

「だって、マネージャーになる前は全くサッカーのこと知らなかったのよね?それなのに今はデータ収集までできちゃうんだから」

「まぁ、やっぱり皆の役にたちたかったですから」

自分で言った言葉に感じる、ちょっとした違和感。

私が頑張ってサッカーのルールを覚えたのは、本当は皆の為なんかじゃなくって。

木野先輩の、為だった。

試合で負けたときの悲しそうな表情を見るのは悲しくて、そして勝ったときに見せる笑顔が大好きだから。

まぁ、私自身も負けているのを見たくはないし、皆の役にたちたいというのもまったくの嘘ではないのだけれど。

「……ん、じゃあ帰りますか」

伸びをしながら立ち上がる。

そうすれば、木野先輩も一緒に立ち上がった。

そして、微笑んで紡がれる、大好きで、大嫌いな言葉。

「ありがとね、いつも」

「あはは、私にお礼言うべきなのは木野先輩じゃなくて、円堂先輩達ですよ」

笑って返すも、本当は泣きそう。

その笑顔が私に向けられる度に、胸が高鳴って。

その無垢な瞳に私が写される度に罪悪感に苛まれる。

木野先輩の笑顔が見たいが為にしていること、それを知らずに彼女は笑顔を向けてくるから。

どうしようもなく、自分が嫌になる。

木野先輩が好き。

私のそんな思いに全く気付く風もなく、木野先輩は私に笑顔を向けてくる。

嬉しい筈なのに、胸が痛む。

なんとなく彼女を裏切っているような想いに駆られる。

それでも、私が自分の想いを伝えられないのは、今の関係を壊してしまうのが怖いから。



(……ごめんなさい、)



だから私は、心の中だけで彼女に謝った。






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