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□振り向いて揺れる髪
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「風丸、」

「ん?」

ふわり、ゆるく癖のある青い髪が波打つ。

「……なんでもない」

「?」

少し首を傾げてまた顔を円堂の方へ向ける風丸。

また話し始めたところで、もう一度声をかける。

「風丸、」

「……何」

ふわり。

青い髪がまた揺れる。

「なんでもない」

「…………」

再び顔を元に戻す。

その時に一瞬、風丸が眉根を寄せた気がする、が、気にしないことにした。

「風ま――」

「何」

言い終えないうちに風丸は振り向いた。

今度は少し乱暴に。

と、今度は舞い上がる、青。

一旦舞い上がったそれは、一秒もしないうちに重力に引き戻され、肩にはらりと降りかかる。

当然の動きではあるのだが、俺はそれをとても好きだと思った。

「ごめん、円堂。ちょっといいか?」

風丸はそう一言円堂に断ると、自分の座っていた席を立ち、俺の方へ向かってくる。

「豪炎寺、何なんださっきから」

微かにイラつきを含ませた瞳で俺を見下ろしてくる風丸。

お得意の腕組も心なしか固い。

その姿から、多少なりとも怒っていることは一目瞭然だったが、そこもあえて気付かないフリ。

「だから、なんでもないって言っているだろう」

「人の名前三回も呼んどいて何もないはないだろ」

「そんな顔するなよ。綺麗な顔が台無しだぞ」

俺は立ち上がり、眉を寄せた額に唇を落とす。

そうすれば風丸は、驚いたように顔を紅潮させ、一歩後ろに飛びのいた。

「ちょ、お前……ッ!!ここ部室っ!!」

「誰もいないが」

「誰もって円堂、が……いない……な…」

振り向いて唖然とする風丸。

円堂は風丸が俺の方に来た直後に出て行ったのだが、どうやら風丸はそれに気付いていなかったらしい。

そして風丸は今の一連の事で戦意喪失したらしく、一つ嘆息すると手近な椅子に座った。

そしてそれにもたれ掛かるような体勢になり、俺のことをじとりと見据える。

「で?結局なんだったんだよ」

首を傾げる風丸。

それと一緒に髪も揺れた。

俺は風丸の隣に座り、その青い髪に指を絡ませる。

そうすれば風丸は、不思議そうな目で俺を見た。

「豪炎寺?」

「さっきの話な。風丸が動くと髪も揺れるだろ?それが凄く、何て言うんだろうな。好き、だから」

「……それだけかよ」

微笑んで言えば、風丸は呆れたように溜め息をついて。

ほんの少し赤くなって、目を反らした。

そして、ぽつりと、呟く。

「……俺の髪が、好きなのか?」

一瞬、何の事だと思ったが、ちらりとこっちを見た風丸の目が、何かを期待するような色をしていたので、思わず笑みが洩れた。

「髪も、だな」

「ふーん」

「もちろん髪だけじゃなくて、風丸の全部が好きだ」

そう言えば風丸は満足そうに笑って、俺の肩にもたれ掛かってくる。

「じゃあさ、例えば、髪切ろうと思うって言ったら、どうする?」

「は?」

唐突な質問に、思わずまじまじと風丸の顔を見つめてしまう。

高い位置で結んでいても肩にかかる髪は、確かに男としては長いだろう。

実際、ちょっと邪魔なんじゃないかと思ったことも数度ある。

しかし、癖がありつつも流れるような触り心地のそれが俺は好きだったし、何より似合っていたから、切るなんて事考えたことなかった。

「まぁ、短くても可愛いとは思うが……。でも、こうして触れなくなるのは少し嫌だな」

とりあえずそう言えば、風丸は面白そうに笑って。

「豪炎寺ならそう言うと思った」

「なんだそれは」

「だって俺も、髪触られるの好きだし」

風丸がこっちを向く。

指に絡めていた髪がするりと逃げた。

そしてどちらからともなく微笑んで。

俺は揺れる髪を目の端にとらえながら、風丸の体を抱き締めた。







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