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□小さな嫉妬心
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コンコン、控え目にされるノック。
午後十一時。
そろそろ寝ようかとベッドに潜っていた俺は、睡眠に入りかけていた脳をゆるゆる起こし、返答をする。
「……誰だ?」
「ん、俺」
普段より幾分か弱々しくはあるが、聞き間違えるはずのない恋人の声。
「あぁ、風丸か。入っていいぞ」
起こしかけた体を戻す。
他のメンバーならしっかり起きただろうが、気心知れた恋人であると分かったとたん気が緩んだ。
小さくドアの開閉の音がし、風丸がこちらに歩み寄ってくる。
かと思えば、何も言わずに布団に潜り込んできて。
「……風丸?」
そのまま瞳を閉じるものだから、ただ一緒に寝に来たのかとも思ったが、風丸に限ってそれはないだろう。
そしてやっぱり風丸も寝る気は皆無だったようで、もう一度風丸、と名前を呼べば、睫毛を震わせながらそろそろと目を開けた。
そこにはいつもの凛とした視線はなく、ただ濃い赤が不安に揺れている、ように見えた。
「……どうしたんだ?」
できる限り柔らかな声でそう言えば、一瞬風丸は口を開きかけたが次には固く口を結び、その代わりという訳ではないだろうが、風丸の右手が俺の服の裾を掴んだ。
明らかに様子がおかしい。
そうは思うも、正直な話原因が全く分からない。
俺も風丸も、世界へ向けての練習をしていて。
そして覚えている限りだと、特に風丸に何があったというのは見聞きしなかったし、練習の合間にも変わった様子は見られなかった。
まぁ、風丸はそういうのを隠すのが上手いから、俺が気付かなかっただけというのも否めない、のだけれど。
とりあえず原因が分からなければどうすることも出来ないし、早く寝なければ明日の練習にも響くだろう。
「風丸、どうしたんだ」
「……っ」
風丸はまた、一瞬口を開きかけて、閉じる。
言いたくない訳ではないみたいだが、言いにくいことなのかそれともまだ言葉を選べていないのか。
これは少し時間がかかりそうだな、なんて頭の片隅で暢気に考えながらも、落ち着かせる意を込めて風丸の背中に手を回す。
抱き止めるようにすれば、風丸が少し震えるのが分かった。
それに俺は少なからず驚いて。
「……風丸……俺、何かしたか?」
そう言えば、風丸は驚いたように目を見開いて、下ろした髪を波打たせた。
「違うっ。豪炎寺は、悪くないんだ!!」
叫び声にも似た声を上げ、それに気付いたのかまた口をつぐむ。
「……風丸、」
「っ」
「ゆっくりでいいから、話してくれ」