むくむく


□シャボン玉
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桜が散っている

それは儚く 綺麗だった


「恭弥」

その下で僕を呼ぶ彼
彼に駆け寄る僕



「待ってましたよ」
「…ごめん」






ぽすん、と骸の胸に顔をうずめれば彼独特の甘い香りが鼻孔をくすぐる


今目の前にいる骸はただの有幻覚に過ぎない
僕の頭の上に乗せられたこの手も、トクンと規則正しく脈打っているこの胸も全部、全部…

でも確かにそれは不安定な存在だけど骸には違いない
僕を愛してくれる大好きな骸

「今度もまた来てくれる?」
「ええ、もちろんですよ
また桜が咲く頃に会いに来ます」



いっそずっと桜が咲いてればいいのに
ここに在る骸という存在を手放したくない

出来るのなら骸を救い出して縛り付けておきたい
どこにも行かないように
消えてしまわないように




「恭弥?」
「…もし来なかったら…許さないから……」
「大丈夫ですよ
今度も絶対に僕は来ますから」


そう言って微笑む骸を僕は信じてあげるべきかもしれない

でも不確かな君の不確かな言葉をどうやって信じればいいんだい?






それからお互いに黙って桜を見上げた






そして骸は別れる刻が来ると僕に口付けを交わす

優しく 静かに そっと…

舌を入れたりはしない
ただ触れるだけ



以前僕はそれじゃ物足りないと言ったことがある
すると骸は
「幻覚の僕に満足されたくありませんからねぇ…

水牢から出れたらたくさんしてあげますよ
君が壊れるくらいに」

そう答えてくれた




だから今年も僕は不満足なキスをされて別れるんだ
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