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□どうかお幸せに
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『・・・おにいさま、』
お兄様、お兄様。
私は貴方の本当の妹ではないけれど、貴方を心から愛し、小さい頃からお兄様と呼ばせていただきました。
お兄様が嬉しそうに笑うから、私は一生懸命塩むすびを握りました。
お兄様が難しい顔をするから、私も一緒に悩んで勉学をしました。
お兄様が悲しそうな背中をするから、私も剣を取って戦場へ立ちました。
お兄様の背中についていけば、どんなに血に塗れようと私は幸せだったのです。
いつからだったでしょうか。
私達の距離がこんなにも遠ざかってしまったのは。
私は、剣を握っていれば、またお兄様に巡り会えると思い、幕府に頭を垂れました。
そして、私は淡い恋心を抱くようになりました。
沖田総悟さん。
私の居場所である真選組の一番隊隊長さんです。
ポーカーフェイスでどこか飄々とした我が真選組の天才は、その小柄な身体の内に想像も絶するような熱い魂を宿らせたお方なのです。
彼は局長を心から慕っております。
局長のために剣を振るいます。しかし、その剣は局長のためであり、己の信念そのものでもあるのです。
彼は、高杉晋助が江戸で目撃されたと聞くと、悔しそうに舌打ちをします。
その度に、胃が縮まるような苦い思いをしました。
ねえ、お兄様?
「・・・なんだ?」
私達は、どこで離れ離れになってしまったのでしょう?
「・・・さァな。んなもん、俺が知りてェよ。」
お兄様、涙が、止まりません。
私はどうして、今、貴方に刀を向けているのですか?
貴方はどうして、私に刀を向けているのですか?
「それは、俺が過激攘夷派浪士の高杉晋助であり、お前が真選組だからだ。」
私は、幕府に忠誠を誓ったことなどございません。
刀を手にしていれば、またいつか会えると思っていました。
貴方に、貴方にどうしようもなく会いたくてここまで生きてまいりました。
「・・・じゃあ、俺を殺したらどうだ?」
できません!
それは、できません、!
「・・・甘っちょろいこと言ってんじゃねェよ。」
「おい!何してんだ!雑魚は足止めしろっつったろィ!」
沖田隊長の怒鳴り声がした。
そう、そうだわ。
私が今立っているのは、戦場だわ。
悲鳴と血が混ざり合う地獄だわ。