庭球夢 短編

□交換条件
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「にーおーっ!」

「…なんじゃー。もぉちっと静かに探しんしゃい。俺は、逃げも隠れもせん」



仁王を捜す事早五分。
今は生徒がいない生徒会室にて、寝ている彼を発見。

大きく息を吸って彼の名を呼べば、仁王はその身体をゆっくりと起こして。
そして、入口にいる私に向かって“逃げも隠れもしない”発言をする。



「…今現在、仁王が教室じゃなくて生徒会室で昼休みになるまでサボってるっていうのは逃げも隠れもしてないって言えるのかな?」

「…言わんのぅ」

「もー!屋上に居ないからびっくりしたんだけど!」



私の経験上、そして柳のデータでも仁王がいない時は屋上、という定理がある。
しかし、この寒い中屋上にいるのかー?…と、半信半疑で向かった所やっぱり彼は居なくて。

生徒会室に来てみたら、案の定、こんな所ですやすや寝ていた。
…人が寒い中走り回ってたのに、ぬくぬくと…!



「でも、屋上の次には此処に来たんじゃろ?」

「……さぁ」

「“愛”じゃのぅ」

「違う」

「照れる必要なんてないぜよ」

「照れてない!仁王!次体育だからね!サボんないでよ!?」

「プリッ」

「サボる気満々でしょ…?」

「ご名答。…こんな寒い中サッカーなんてする奴らの気が知れん」

「…つまりあんたは、自分だけじゃなくて私も巻き込む、と…」

「…は?」



ニヤリと笑った仁王に忌ま忌ましくその言葉を吐き出すと、さすがの仁王も理解不能の様で。
何が言いたいんだという様に、顔には出さないけれど不思議そうに私を見つめる。



「だーかーらー、次の体育、真田・柳生組と一緒なの!仁王が来なかったら“何で呼ばなかったんだ!”…って、私まで真田に怒られるの!」

「そりゃ、理不尽やのぅ」

「でしょ!?私は頑張って探してちゃんと伝えてるっての!…じゃなくて!とにかく、ちゃんと体育出てね」



思わず、説明を受けて納得している仁王の言葉にのってしまったがとりあえず伝える事は伝えた。

…さっき、丸井にも今日は合同体育である事を言うと、その瞬間に知ったらしく驚いていたけれど。
朝、真田があれだけ合同だからサボるなと連呼していたのを忘れられる事の方が不思議である。



「しゃーないの。出るだけ出とくか」

「うん、よろしー!」



近付いて来た仁王の頭を背伸びして頑張って撫でれば、彼は仕返しとでもいう様に私の頭を豪快に撫でる。
…うわ!髪の毛ぐしゃぐしゃになる!



「女子は何するんじゃ?」

「中でバレー!…いいっしょ?」

「…ピヨ」

「でも、晴れてるから外も気持ち良さそうだなぁ」



調度見えているグラウンドを見下ろしてそう呟けば、彼は隣で「でも寒い」と付け足す。

…暑いのが苦手なくせに寒いのも苦手なのか、こいつは。
だから、外部活のくせにこんなに色が白いのか。



「ねぇ仁王!いい天気だし、仁王が真田達に勝ったらデートしよ!」

「…負けたらどうするんじゃ?」

「うーん…真田とデートする!」

「ククッ…そりゃ、負けられんの」



ふざけた言葉に小さく笑った仁王は、自分で言った事にウケている私の頭を優しく小突いて。
左手で私と手を繋ぎ、右手はポケットに入れたまま歩き出す。


…さぁ、授業開始まで後十分。



一時間後には、A組に勝って興奮している丸井に、仁王が真面目にやっていた訳を問われ続けるという事は知る由もない。



それは全て
愛の為なのです



(よかった、真田とのデートは免れた!)
(他人にとられるのはたまらんからのぅ。しかも真田じゃし)






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