庭球夢 短編

□魔法の言葉
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俺には、隣の家に住む同い年の幼馴染みがいる。

でも、その幼馴染みというのが…どこか抜けていて、楽観的で、マイペースで。
危なっかしくて目が離せない。

しょっちゅう“お前は兄貴肌だ”と言われるけれど…小さな頃からあいつの傍にいれば、誰だってそうなる。それこそ、兄貴の様に面倒を見ているのだから。


“お前は振り回されている”と言う奴もいる。


でも俺は、いつからか彼女に恋をしているから。
頼ってくれる事が嬉しいんだ。


例え、



「亮ちゃーん!」



兄貴の様にしか思われていなくても。



「おう、どうした?」



そんな風に一人思い更けていると、その幼馴染みが教室の入口で昔と変わらない少し舌回らずな発音で俺を呼んでいた。
無垢で純粋な姿は、昔と寸分も変わらない。



「あのね、この問題次当たるんだけど…わかんないから教えて欲しいの」

「あぁ、貸してみ」

「わーい!ありがと!」

「…でもわざわざ俺のクラスに来るより、同じクラスの跡部の方が早かったんじゃねぇか?」



あいつの方が頭もいいし。
そう続けて、はっと気付く。

……また、跡部に嫉妬してしまっている。


テニス部の奴らは俺とこいつが幼馴染みだという事を知っているし、彼女も媚びを売る様な奴ではないから仲もよくて。
跡部だって、なんだかんだ言いながらこいつには甘い。



「でも跡部に聞くと、こんなのもわかんねぇのかって馬鹿にされるんだもん」

「たしかに言いそうだな。…ほら、出来た。やり方も書いといたからちゃんと読んどけよ!」

「わーい!ありがと、亮ちゃん!大好きっ!」



“大好き”


その言葉に、彼女を恋愛対象として見出した頃の俺は期待した。
でも、大好きという言葉は彼女にとっては『ありがとう』と同等なお礼の様なもので。

俺が期待している様な意味では、ない。



「なぁ。そうやって、大好き、って…簡単に言うな」

「…あ、それ、跡部と忍足君にも言われた」



俺に続いた思わぬ言葉。
それに動揺してしまうのは、自然な反応だと思う。



「おまっ…跡部達にも、言ったのか!?」

「…?うん。そしたら、そういうのは好きな奴だけに言えって言われた」



跡部達が彼女の“大好き”の意味をわかっていたからよかったものの。
俺以外にも言っていた、という事を決定付けられ先程より激しく動揺した。

…そんな事にはかけらも気付かずに。
俺が内心自分と戦っている間何かを考えてていた彼女は、何かを納得した様に「あぁ!」と声を上げる。



「じゃあこれからは、亮ちゃん以外には言わない様にしなきゃね!」

「……え?」

「そういう事かー!…じゃあ亮ちゃん!これ、ありがと!ばいばーい!」



いきなりの爆弾発言に、呆然としている俺をおいて。
妙にすっきりした顔でにこにこしながら手を振って、自分の教室へと戻って行く幼馴染み。

そのまま固まっていると、廊下を走っていた岳人にいきなり頭を叩かれて。はっと我に返る。

そして一つ大きく息を吐いたら、短くなった頭をガシガシ掻いて。



「……激ダサ」



君の言葉に一喜一憂出来る俺は、本当に君に振り回されているのかもしれない。

…でも、それでもいいと思える自分がいるんだ。



罪深き天然



(あれ、俺流に解釈していいんかな…)

(跡部ー!大好きは封印しました!もう亮ちゃんにしか使いません!)
(…やっとかよ)






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