庭球夢 短編

□待ってて!助けに行くよ!
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「ねぇブン太」

「あん?…何だよ?」

「今女の子達が、ブン太のケー番とメアドを賭けた宝くじみたいなのやってるんだってさ」



頭上には澄んだきれいな空。
そんな青空の下で、彼と仲良くランチタイム。

お弁当なんてぺろりと完食してしまったブン太は、デザートに大量のお菓子を食べています。
そんな中私の言葉を聞いた彼は、お菓子を手に持ったまま不可解そうに眉を寄せる。



「…はぁ?」

「…で、昨日の時点でそれに三百人の子が応募してるって柳が言ってた」

「なんか…怖ぇな」

「…で、いっその事ブン太のケー番とメアド売ろうかって私と赤也が言い出して」

「…はぁ!?何考えてんだよ!?」

「そしたら、幸村と柳と仁王もそれに乗り気で。…ちなみに収入金は全部私達のものだからー。ありがとブン太」

「ちょ…待てよ!金は普通俺に来るだろぃ!?菓子買う金にする!」



ブン太の反応はあまり気にする事なく、とりあえず話の流れだけを説明する。
その後に続いたのは、彼の性格が一番わかる発言。
変な所に観点を付けた彼氏に思わず溜め息がもれてしまう。



「…あんたは…いつでも食い気が勝つんだね…」

「当たり前だろぃ?」

「ちょっと考えてみてよ!あの子達なら、多少高くたって手を出すわ!仁王と幸村と柳がタッグ組むんだから、その辺は抜かりないでしょ!」

「まぁ…そうだろぃ」

「殆どの子が手に入れるんだよ!?そしたら、あんたの携帯鳴りっぱなしよ!?朝も授業中も部活中も帰宅後も寝てる時も!」

「やべ…超怖ぇんだけど…!」



必死に説明する私に、とりあえずお菓子を食べる手を止めたブン太。
事の重大さを理解すると、彼の表情もだんだん深刻になっていく。



「きっと、メール送れなくなるぐらいひたすら受信中でしょ」

「いや、それはおかしいだろ」

「わっかんないよ!今は“当たらないだろー”って応募しない人がいるだろうし!今現在で30%以上の子が応募してるんだし!」

「…何より1番怖ぇのは…」



「「幸村と柳と仁王」」




あ、ハモった。

…なんて、のんきに思っている暇はなくて。
とりあえず、二人で同時に息をつく。



「…やっとわかってくれたんだ」

「さすがにな。…やべぇ!あいつらなら、何しでかすかわかんねぇって!」

「何てったって魔王と達人と詐欺師だから…」

「…聞こえてたらお前、地獄行きだぜぃ?」

「ゴホン!…今のは寝言」



ポロっと言ってしまった禁句に、今現在屋上には誰もいないというのにお互いにキョロキョロしてしまう。

…うん、とりあえずセーフ。



「ところで、お前と赤也はどうしたんだよ。提案者なんだろぃ?」

「…参加者が怖い&権力ありすぎて発言権なし。今更“あれ冗談!”なんて言えないし…仮脱退中」

「…肝の小せぇ奴ら」

「…せっかく脱退してブン太救出側にまわってあげようと思ったけど…辞めようかな」



だいたい、ブン太が朝部活を寝坊せずに来ていればこんな話にはならなかったのだ。

あの三人を止めるのなんて・・・至難の技。
仁王だけならまだしも、幸村と柳が絡んでしまっては真田だって使いものにならない。
ジャッカルと柳生なんて、論外だ。味方につけるどころか、敵になるのだって時間の問題だ。



「待った待った待った!ほんっとにすみません、助けて下さい、アレ止められるのはお前だけ!」

「…プライド粉々」

「う…うっせぇよ!愛する彼氏のピンチだぜぃ!?普通助けるだろぃ!」

「…開き直るしさぁー」

「…うっせ!必死なんだよこっちは!パフェ奢るからなんとかしろぃ!」



ブン太もそれをわかっている様で。
第三者から見たらこの件は面白いのだろうけど、当事者達からすれば冷や汗ものだ。

今、あの三人を止められるのはもはやマネージャーの私だけだろう。
…まぁ、この上なく難しいのだけれど。

これも、惚れた弱みなのかな。
提案者のくせに、結局は彼を助けている。



「…じゃ、愛する彼氏の為に頑張りますかー」

「…結局お前も食い気じゃねぇか」



パフェという言葉を聞いてやっと彼等を止めに行こう歩き出したとした私の背に、人には色々言っといて。とぶつくさと付け足したブン太。

そんな彼に、足を休める事なく前を向いたまま「違うよー」と返事をする。



「…じゃあ何で手を打ったっていうんだよぃ?」



どうせ言い訳じみた答えが来ると思っているらしく、面倒臭そうに投げ掛けられた言葉。
その言葉を聞いて、ドアノブに手をかけて小さく笑いながらブン太を振り返る。



「愛する彼氏と共有する時間ー。…デートもメールも電話も、ね」

「…っ!?」

「んじゃ、行ってきまーす」




自分で言ったものの、赤くなったブン太を見たらなぜか急に恥ずかしくなってしまって。
そそくさと屋上を飛び出していく。


…うん。
慣れない事はしない方がいいや。


照れちゃって、ちょっと混乱しちゃって。

幸村達を丸め込む言葉が、浮かばない。



戦え!女の子!


(失敗したらごめん、ブン太!)

(…やべ…今の、結構キた…!)






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