庭球夢 短編

□温もりを一人占め!
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普通は…もう少し甘い空気になったりするんじゃないですか?



「…怒ってる?」

「お前がそう思うんならそうじゃねぇの?」


にっこり。
怯えながらの私の疑問に疑問を返した赤也。

しかも、極上な笑顔と来た。
言葉といい、表情といい…明らかに怒っている。



「…また、誰かと喧嘩したの?」

「馬鹿野郎。俺がいつもそういう事してる奴みたいに言うんじゃねぇよ」



違うの?
…とは、言える筈もなく。

喧嘩をしたんじゃないのなら、原因は私にあるって…前、仁王先輩とブン太先輩が教えてくれた。

…室内に、2人っきり。なのに、なんでこんなにもピリピリしているのだろうか。
まぁ正確には、赤也が怒ってますオーラを出してて、私がそれにビクビクしているだけなのだけど。



「…私が、原因?」

「よくわかってんじゃん」



そこは、否定して欲しかった。
…こんな赤也を目の前にして、私が平和にいれた試しがない。



「…憂鬱」

「何が?」



その声に、はっとする。
…心の中で呟いたつもりだったのに。どうも、声に出していたみたいだ。

ああもう…自分で事を面倒にしてどうするんだ。

ワカメ野郎、とかじゃなかったのは救いだけど…今の赤也なら、何が憂鬱なのかはわかっている筈だ。
…わかっていて聞いてくるってなんて性格が悪いんだ。
しかも、私が原因と言われても心あたりは何もない。
でも、事が大きくなる前に取りあえず謝っておかなくては。



「…ごめんなさい」

「俺が、何に対して怒ってるかわかってるか?」



わかる訳ないじゃない!
…とも言える筈なくて。
おとなしく、小さく首を左右に振る。
すると、彼は大きく溜息をついて、私の右頬に手をあてると…くいっと自分の方へと上げる。



「今日、あった事を考えてみろよ」



今日…?
今日は、いつも通りに授業をうけて…



「そこ。体育の時」



体育…は、テニスだった。
男子の先生が出張で居なかったから、男女合同で。

−−…あ
そういえば、私が打ち間違えた球が、見事に赤也に当たってしまった様な…

あの時の赤也は私がやったとわかっていなかった為、とんでもなく睨んできたのだ。私だとわかった瞬間には、笑いながら「バーカ。ノーコン!」と言われたっけ。



「えっと…ボール当ててごめんね!」

「…間違ってはいねぇけど、違ぇよ。…俺以外にも、当てたろ?」



そうだった!
もう一人にも当ててしまったのだ。

言われるまでわからなかったのは、赤也の方が怖くて印象に残っていたから。

それは、サッカー部の幼馴染みの男の子。彼は、必死に謝ったら「そんな謝んなくていいよ」と笑って許してくれた。
…赤也とは比べ物にならない程いい人だ。



「うっせ。しかも、勝手に話を美化すんじゃねぇよ!」

「…はぁ?美化?」

「お前っ…!…キスされてただろ!?あいつに!」



…キス?
なんの事かと思って記憶を辿れば、確かにキスをされた。しかし、それは頬だ。

彼とは幼い頃からの付き合いがあるから、あんなのは赤也をからかう為の悪ふざけにすぎない。それを、赤也だって渋々だが納得している筈だ。
なのに、怒っているという事は…赤也の角度から見たら、唇にしていると勘違いをして…

もしかして、ヤキモチを…?



「…何笑ってんだよ」

「や、ごめん。…嬉しくて」



小さく笑いながら言った私を不可解そうに見た赤也。
…これだから、赤也から離れられないんだ。



「嬉しい?」

「赤也が、ヤキモチ妬いてくれて」

「っ…!ち…違ぇよ馬鹿!彼女が他の男とキスなんかしてたら、誰だって…!」

「してないよ、キス」

「…はぁ!?」

「頬っぺただよ。いつもみたいに」



真っ直ぐ彼の目を見て言い切ると、赤也は小さく溜息をついて。…ガシガシと勢いよくくせっ毛の髪を掻く。



「にゃろう…わざと俺にああやって見せたのかっ…!」

「昔から人イジるの好きだからねー」

「わかっちゃいるけど…やっぱ、他の男とお前が絡むのは嫌なんだよ」



ぶすっとして言い捨てられた言葉。
…私は、自分が思っていたよりもずっと、愛されてるっぽい。



「赤也」

「…あんだよ」

「好きだよ」

「…知ってる」



私の首に手をまわし、自分の方に引っ張った彼。


赤也は、滅多に言葉にしてくれないけど。
ぽんぽん、と。優しく笑って、頭を撫でてくれる手から…ちゃんと、伝わってくる。



「私って、愛されてるー!」

「…バーカ」




この温もりは
譲りません!



(でも、不安になっちゃうからたまには言葉にしてね!)





 

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