庭球夢 短編

□走り書いたラブレター
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友達以上、恋人未満。


どう転んでも、あいつとはこれ以外の関係にはなれない気がする。

私が割とサバサバしている為、赤也とはすぐに打ち解けられた。
しょっちゅう口喧嘩をしている為、毎日の恒例行事として皆の暗黙の了解。だけど、大きな喧嘩になった事は一度もない。


喧嘩する程仲が良いとか、どんぐりの背比べとか…よくセットにしてからかわれるけど。

他の子達だって、赤也が誰かと喧嘩をしていれば…なんだかんだ言って助けを求めて真っ先に私の元へ来る。


毎日毎日、くだらない話をして笑いあって、同じ時間を共有する。それが楽しくて、よく一緒にいる。
席が前後になってからは、授業中だって休み時間の延長だ。


−−…だからかな。
一緒に時間を共有し過ぎていて、恋愛には発展しない。例え願っていても、行動には移さない。


一言で表せば、臆病なんだ。
今の赤也との関係が消える事が、何よりも怖い。



「なぁ、なんか食うもん持ってねぇ?」



ぐるん、と勢いよく振り返った赤也。
回想の世界に飛んでいた私にとってはいきなりの事で、思わず少し引いてしまう。



「ガムなら持ってるよ」

「サンキュー!」

「まだあげるとは言ってないですー」

「あるって言った時点でそれは決まってんだよ」

「うっわ、横暴!…しょうがないなぁ」

「サンキュ……って、これ、丸井先輩が好きなヤツじゃん!」

「そうそう。こないだ勧められて」

「流されたのかよ…」

「っても、本当に美味しいよ?」

「まぁ、あの人が勧めてるんだから…まずい訳はねぇだろ」

「あはは!確かに!」



いつもと同じやり取り。
2人で笑いあっていると、チャイムが鳴り響き英語の先生が教室へと入って来る。英語が大の苦手な赤也は深い溜息をついて。
毎度の事ながら私は苦笑し、励ます様に彼の背をぽんぽん、と軽く叩いた。





授業がもう終わるっていう頃。
先生が前回の小テストを列の1番前の人へと渡し始める。

いつもなら寝ている筈の赤也は、今日の英語はずっと起きていて。それを不審に思いながらテストが返って来るのを待つ。



赤也までテストがまわって来た時。
ちらっと100という数字が見える。

この列の1番後ろは私。

あのテストは赤也か私のものであって…彼が100点なんかとれる訳ないから、消去法で考えると私の物、という事だ。
心の中でガッツポーズをきめ、赤也がまわしてくれるのを待っていると、少ししてから私の元へテストが返って来る。


いつもなら身体ごと私の方を向いて、渡すついでにベラベラ話すのに。
今日は、手だけで渡してきた。いつもとの違いを不思議に思いながらも、返って来た小テストを見れば…



点数の横に、何か文字が書かれていた。
走り書かれたその文字が、誰のモノか、なんてすぐわかった。


−−その文字に、目を疑った。




『好きだ』




…たった、3文字。


決して綺麗とは言えない、クセのある赤也の字。
呆然としていると、教室には終わりを告げるチャイムが鳴り響いて。クラスメートががやがやと斑に散る中、私と赤也は別世界に居る様で。


仏頂面をした彼が、ゆっくり振り向くと…心臓が壊れたかの様に激しく鼓動を刻む。



「…言っとくけど、本気だからな。お前が満点5回とるまで待ってた」



じゃあ、これが5回目だったんだ…と、上手く働かない頭で場違いな事を考えてしまう。
見た目とは裏腹に、なんて可愛い事を考えていたんだ。


赤也が、私を真っ直ぐ射ぬく。
あぁ、自分の持っている熱が上がっている。心臓だけじゃなくて、身体までもおかしくなっている。



「俺はずっと、お前の事好きだったんだけど…お前はどうだよ?ただの、友達か?」



真剣に問う彼が、可笑しくて。
だけど、それが何よりも愛おしくて。

力の入らない手に収められていたシャープペンをしっかりと握る。


そして、小さく笑うと、10点と書かれた赤也のテストにペンを走らせる。




『好きだよ。…私もずっと、』



「赤也の事、好きだったの」




走り書いた
ラブレター




(嬉しそうにガッツポーズをした彼に、)
(また、心奪われた)


***

いたずら小僧の葬送さま提出
ありがとうございました!



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