庭球夢 短編

□キスの合間に囁いて
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「何だそれ?」

「チョコレート!さっき友達に貰ったの!」



さすが、お菓子には目敏い我が彼氏。私が小さな箱を取り出すと、すぐに興味を示す。



「ねぇ知ってる?チョコとガム一緒に食べたら、ガムが消えるんだって!」

「へーえ!」



これも、チョコレートをくれた友達が教えてくれて初めて知ったのだけど。
やっぱり、こういうものは実際にやってみたくなる訳で。

目の前には、ガム中毒のブン太。私の手には、チョコレート。

…これは、やるしかないでしょう!



「ブン太、今ガム噛んでる?」

「おう」

「やってみて!」

「了解ー」

「はい、あーん……っ!?ちょ、何…っ!?」



指で摘んでいたチョコレートを奪われたかと思ったら、それは私の口の中へと入れられて。その上壁へと押しやられて、背中に壁の固さを感じる。

訳がわからず文句を言おうとすると、その言葉が出るよりも先に唇を塞がれてしまって。


…否、塞がれるなんて表現、甘温い。

もっと激しく。彼の舌がスルリと私の口内に入り込んできて、チョコレートを自分の口内へと移動させる。
一瞬解放されたかと思ったら、そんなのつかの間の出来事で。
大きく息を吸って酸素を取り入れ様とするが、それすらも許されない。

再びチョコレートが口内に戻ってきたかと思ったら、さっきまで彼が噛んでいたガムも一緒に入って来る。


巧みなキスに溺れて朦朧とする頭で必死に考えて彼の意図がわかった時。
激しいキスの中でお互いの口内を行き来していたガムとチョコレートは、いつの間にか消えていて。

実験結果がわかったというのに、彼の口付けは更に深くなっていって。腰を支えて貰わないと倒れ込んでしまいそうな程。



「ふぁ…っ、ブン…!」



長い長いキスがようやく終わった時、酸欠状態になっている身体の力が一気に抜ける。

彼の胸板にもたれ込みながらも、大きく呼吸をして空気を吸い込んで。なんとかして脳に酸素を送る。



「本当に消えるもんなんだな」

「自分で、確認出来た、でしょ…!?」

「一人でやってもつまんねぇじゃん?どうせなら有効利用ー…ってな」



ニヤリと、不敵に笑って。
息も絶え絶えに話した私の頭をくしゃくしゃと撫でる。



「顔、真っ赤」

「…酸欠なの」

「それだけじゃねぇだろぃ?」



真っ赤な顔を見られたくないから上げられないけれど、きっと、さっきよりもいっそう楽しそうに口角を上げているに違いない。


わかっていて聞いてくるなんて、嫌な奴め!
だけど、不敵に笑うその顔も好きなんだから…私の完敗だ。



「今度から、こうやってガム処理すっか」

「…何でよ!?普通に捨てた方が早いでしょ!」



思いもよらぬ言葉。
驚いて顔を上げれば、チュッという音と共に軽く触れた唇。遅いとわかっていても、唇を手で被って隠す。



「何でって…好きだからに決まってんだろぃ」

「ガ…ガムを?チョコを?…キスを?」

「お前を」



予想を大きく裏切った言葉に目を見開けば、油断していた為、唇を守っていた手を外されてしまう。


悔しいけれど。

再び始まった口付けに。
ふわりと香る彼の甘い匂いに。
滅多に口にされない甘い言葉に。



彼の全てに、私は溺れる。




キスの合間に囁いて





(こ……こんなキス魔に育てた覚えはありません!)
(育てられた覚えもありませーん!)






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