【L'amour Jasper】
‐20.5th colore‐





大勢の人が溢れる駅前で、あたしはぼんやりと立ち尽くしていた。


慌ただしさに身を任せて、見て見ぬふりをしてきた季節の移り変わりも、今日ばかりは無視できそうにない。




「……あれから一年、か…」




12月25日。

目の前でキラキラと輝く大きなクリスマスツリーは、間もなく今年の役目を終える。


あたしは今年も、怒濤の忙しさの中でクリスマスを迎えていた。

その忙しさから解放され、張り詰めていた気持ちが緩んだ途端、ふと去年のことを思い出した。



准くんと出逢ったのは、ちょうど一年前の今日。


いろんなことがありすぎて、あれからまだ一年しか経っていないのが嘘みたいだ。

最後に会った日からも、既に季節はふたつも変わっている。




あれからあたしは、みんなの元を離れた。


あのまま、想い出の強い場所で、想い出の強い冬の匂いを、一人で感じて過ごすなんて出来そうになかった。


だから離れたはずなのに…





「……元気かな」



クリスマスツリーに向かって、ポツリと呟く。


結局思い出してしまうのは

冬の冷たさも、この景色も、去年とよく似ているせいかもしれない。




この街で過ごす、初めての冬。

…初めてのクリスマス。


昌くんも准くんも、今あたしが何処で何をしてるかなんて知らない。



ふいにじんわりと熱くなる瞼を誤魔化すように、ギュッと目を閉じて大きく息を吸い込んだ。

身体に流れ込む冷たい空気が、熱を帯びた目の奥を刺す感覚が心地いい。


ふぅっと息を吐き出して目を開けると、途端に闇に包まれた周辺の景色に、白く染まった息がくっきりと浮かび上がった。


午前0時。


時間を確認しようと手にした携帯には、今年は何の音沙汰もない。

あたしも、今みんながどんな風に過ごしているかなんて知らない。




「……大丈夫だよ」



──あの二人なら、きっと上手くやってる



そう自分に言い聞かせるように呟いて、灯りの消えたクリスマスツリーに背を向けて、雑念を払うかのようにもう一度大きく息を吐き出した。








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