東方零紀行 〜Dream Diary〜

□第四章:迷ひ家、幻想郷へ
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「空気が、清んでる……」

 間違いなく場所が変わったのが判った。
 肌が感じる感覚が全く違う。

「いや、それはもっと別の意味があるのか……」
 空気に何か混ざっている感じがする。
 明らかに異質なもので、少し禍しい。

 丁度、俺の背後の『隙間』から流れ出ているものと同じようなものだ。
「……これが妖気、とかいうやつか……?」
「そうよ。敏感ねぇ」

 ガサリ、と背後で音がする。
「こうもはっきりと違うと誰でも判る気がしますがね」
 そう言いながら俺は振り返る。

 そこに、もう『隙間』は無い。
 代わりに、彼女――八雲紫が立っていた。
「まあ、空気が綺麗だということもありますが」
「ふふっ、こっちは環境汚染とは無縁よ。こんな山の中は特にね」






 そう、今俺達は山の中にいる。
 あの後、『隙間』を通って幻想郷まで来たわけだが、いまいち世界が変わったという実感が無い。
 それでも、さっきも言ったように異質なものをあちらこちらに見つけることが出来るのだが。



「それで、これからどうします?」
 来たはいいが、それからは何も考えていなかった。
 そこで、夜空を見上げている紫に聞いたわけだが……。


「……」
 無言。

 嫌な予感がする。
 まさか連れて来ておいて「はいさようなら」じゃないだろうな……。

「紫さん?聞いてますか?紫さ――」
「シッ」
 彼女は唇に人差し指を当てて俺を制した。
 星が映った彼女の瞳は、じっと夜空を見つめていた。




 暫く二人とも動かなかった。
 心臓の鼓動を六十ほど数えたところで漸く彼女が動いた。
「やっぱり、消えたのね……」
「?」
 そう呟いて、彼女はそっと目を伏せた。

 俺は、ただ疑問符を頭の上に浮かべているのみ。
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