東方零紀行 〜Dream Diary〜
□第六章:人間と妖怪の境界
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「さて、と。私はこんな無駄話をしにきたんじゃないのよ」
急に真顔で霊夢が俺を見る。何だ一体。
「橙。私と霊夢は彼に大事なお話があるから外で遊んできなさい」
「はーい」
元気よく出ていく橙。そして、俺に向き直る紫。
結構居心地が悪い。
「紫も眠いんじゃないのか。さっきまで気持ち良さそうに寝てたが」
「ん、ん。今は寝るよりも大切なことがありましてよ」
紫がわざとらしく口調を変える。何となく気味が悪い。
「そうよ。とにかく、なんであなたが幻想郷<ここ>にいるのか、説明してちょうだい」
そんな責めるような語調で言われても。俺には霊夢の問いに答えを持っていなかった。
「言ったでしょう?彼は『夜野零』なの」
「それはあんたがそう呼んでるだけでしょう。彼自身が零な訳無いわ」
「いいのよ。その身に宿ってるものは同じなんだから」
……置き去りにされてる気がする。
「すみません。話が見えないんですが――」
「あなた、妙な経験したことある?何でもいい、とにかく変な経験を」
は?いきなり何を?
「えっと……どういうことですか?」
「幽霊を見たとか、そんな感じのやつよ」
さらに補足してくれているのだが、話の方向性が皆目見えない。
「――幽霊は、無いです」
「魔法とかは?」
「見たこと無いです」
「じゃあ妖怪」
「彼女のことでは?」
最後の一言は、紫を指しながら言ったものだ。
「ねぇ、紫。本当に彼なの?」
「間違いないわ」
俺にはまだ話が読めないようだ。