「見て見て準、雪だよ」


そう言って貴様は空を見上げ、届くはずのない天へ向かって手を伸ばす。静かに降ってくる雪の感覚を味わいたいのだろうか?

俺も同じように空を見上げれば、頬に冷たい感触。雪の結晶が俺の肌を掠めて行く。


俺はまずこの温暖気候のデュエルアカデミアに雪が降るなんて信じられなかった。だが現に白は宙を舞い、そしてこいつはそれを楽しんでいる。

確かに今日は朝からいつになく冷え込んでいると思っていたが、まさか雪とは。一体誰が予想しただろうか。


「とってもきれい」


嬉しそうに目を細め微笑む貴様のほうが何倍も何十倍も綺麗だ。

…そんなことを言ったらまたお前は「もう、お世辞はいいよ」と照れるのだろう。俺は思ったことを口にしているだけなんだが、こいつはいつもそうだ。

恥ずかしがり屋で、俺の言葉を真っ直ぐに受け止めてくれない。お世辞だといつも巧い具合に避けるのだ。


「きれいだけど、でも、とっても儚い」


ほら、また。何処か悲しげなその表情、舞い散る雪、この光景はまるで幻想的な世界に住む妖精のよう。


貴様の全てが、俺を虜にする。

ほら、いつの間にか俺の視線は空から貴様へと移っている。


お世辞なんかじゃない、他にこの想いを表す言葉が見つからないだけ。
だからありふれた言葉を繋いで貴様に伝える。そうするとキザな台詞にしかならなくて、恥ずかしがり屋のお前を困らせてしまうのだが。


「あ…雪、止んじゃった」


言われて俺は初めて気付く。彼女を美しく引き立てていた雪がいつの間にか止んでいたことに。


「確かに儚いな…雪は」


蝋燭がいつか燃え尽きるのと同じように、雪もいつか溶けて消えてしまう。
限られた時間だけ存在出来るモノなのだ。


灰色の雲だけが広がる、雪の無い空を見上げる。


「準、わたしたちもいつか消えちゃうよね」

「…命だからな、当然限りはある」


悲しげな声に静かにそう返すと、左手に暖かな感触。

ゆっくりと振り返れば、貴様の小さな両手が俺の手を優しく包み込んでいた。


「だから今を大切にしなきゃいけないんだよね」


そう言って、俺の指先にキスを落とす。それがくすぐったくて、俺は思わず小さな笑みを溢した。

そしてそのお返しと言わんばかりに俺はすかさず貴様の唇に自分のそれを重ねる。


ゆっくりと触れた唇を離すと、貴様は顔を真っ赤にして俺の胸に飛び込んできた。俺はそのままお前の背中に手を回し、強く抱き締める。今日という思い出の一日を刻むために。


「準、大好き。これからもずっと一緒だよ」

「ああ、勿論だ」


こいつが俺の胸に顔を埋めていてよかった。

お前が愛しすぎて、この瞬間が幸せすぎて、思わず口元が緩んでしまったから。
そして何よりその表情は自分でも分かる程にまで赤く染まっていたからだ。

こんな表情を見られたらたまったものではない。こいつのことだ、「あ、顔赤いよ?」とからかわれるに決まっている。


「愛している」


だからこの頬の赤みは、寒さのせいにしておこう。
 
 
 
 
 
 
万丈目夢でした〜。
なんか万丈目っぽくない気が;

 
 
 


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