もっと緩やかに
もっと穏やかに
そう思ってた。
早くも春は過ぎた。
分け入っても分け入っても青い山。
あなたと約束した季節はもう目の前まできていた。
「ずっと、側にいるよ」
思い合った嘘をつけるあなたに
「どーだか」
心の底から
臆病になってしまっていた。
溢れていく思い出は計り知れない。
愛していた想いはあなたよりも深い。
「もうさ、夏服出すか?」
「あーもうそんな時期、か」
「…ああ」
一瞬曇った俺の声をアスマは聞き漏らさなかった。
もとから一年の付き合いって決めていたから
アスマの子供が産まれる夏の日までの
「男?女?」
「出てくるまで知らないことにした」
「…そう」
穏やかにうるむ日差しをくれた太陽は隠れ、灰色の雨が降り出した。じとじとと鬱になるのはこのせいだと思いこむことにした。
クローゼットの左奥には、去年の幸せだった日々があるのだろうか。
引き出したら飛んではじけて消えるのではないのだろうか。
ああ冬の切なさを引きずったまま
俺はそっちに行けない。
季節とあなたに置いてけぼりを食らっても
ずっとここに
立ったままだろう。
ホコリが濡れたニオイに鼻がなれたら、クローゼットをあけよう、
今までを噛みしめるように、
穏やかに、かつゆっくりと。
20090115