お気に入りの大判のストールを巻いて雨の中を歩く。
傘は小さく、ネイビー色の毛糸の袖は濡れていた。濡れた毛糸は嫌いだった。
透明のビニール越しに見た街はグレーを基調としてそこにいた。なぜか冬の雨の日は暖かく感じた。
濡れないようにロールアップしたジーンズから出たくるぶしも前髪をまとめ上げてさらけでたデコもわりと寒さを感じない。
「鶏肉とりにくとりにく…」
メモをし忘れた買い物を小さくつぶやきながら、赤信号を待つ。
カッコウカッコウと反対側の道路の青信号を知らせる音色が聞こえた。
車道を走る車の水をはじく音や、雨の音に消されそうな遠くの喧騒、暗く灰色に感じるのは視覚だけではなかった。
「はい、アスマ?」
ゆるく振動した携帯に出るといとおしい声。
「うん、うん、鶏肉」
「そう、あとうん、白菜な」
「え、ポン酢はまだあるよ」
ばか、ゆずのはいらないよ、と電話を切った。
周りの通行人に気づかれない程度に笑んで、携帯をポケットにしまう。
くぐもった世界の音が一瞬でクリアになって、景色も少し明るんだ。
ただ、ほんの少し寂しくなって、ほんの少し肌寒さを感じて早く帰ろうと足を早めた。濡れて重くなった毛糸も気にならなかった。
一巡してまた青になった反対側の道路の信号はカッコウカッコウと鳴いていた。
さっきよりも心なしか明朗に聞こえたその音。
「…はは」
ラビアンローズとはよく言ったものだ。それに気付いて、いやだな、とまた少し笑った。
今日は水炊き
20090210