「それはアスマさんがばか」
「そうなのか?」
そう言ったアスマさんのワイシャツのカフスの部分には折り目がきっちりついていた。
【きっとそれは】
急に電話がかかってきたと思ったら、今夜飯でもどうか、との誘いだった。
俺は多少の浮き足だった気持ちを沈めて臨んだ。
「クレナイさんはいいの?」
「ケンカしたから、今日ご飯ない」
「は」
だからか、と浮いた足が地につく。
「まさか奢りっすよね」
「まあ、しかたねえな」
ご飯がない理由、
ワイシャツにアイロンをかけくれたクレナイさんにアスマさんは文句をいったらしい。
カフスの部分は、まあるくかけろよ。と
まあ、それは腹が立つだろう。
とりあえず、小さなことだけど。
「女ってめんどくさいな」
「いや、それは怒るよ」
運ばれてきた前菜を口に運びながら言った。
「そう?」
「早く帰ってあげなよ」
「いいよ」
今朝出がけにごめんねと謝ったから、と言ってなんかソースがかかったものをアスマさんは食べた。
「仲いいんじゃん」
「そうか?」
空調で涼しくなったのか、腕をまくるのをやめたアスマさんは掛けづらいカフスのボタンをしめた。
「ふ…」
「あ?」
思わず吹き出したら、口に含んだセリが出てきた。
掛けづらいボタンをしめた。
その行為こそが彼女への愛だということは、教えないでおこう。
知らぬ間にノロケを食らう。
「べつに」
「なんだよ」
「仲いいんじゃんな、やっぱ」
「はー?」
食べ終わってタバコをふかしたアスマさんは訝しげな顔をしていた。
それが面白くってかわいくって、もう絶対絶対教えない、そう思った。
そして
「俺はまあるくかけられるよ」
と、アピールをした。
くやしいもん。
だって
きっとそれは、愛だから
091011