オリジナル小説

□シーズン
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一章 入学式

近所の高校に今年の春から通う新入生、四谷時季(よつやしき)。
時季は、小学校中学校と何をするわけでもなく、ただ惰性に生きてきた。
学力も平均よりも少し上だったし、運動神経だって悪い訳ではない。
ただ、本人の努力次第ではもっと上を目指せるのに、やる気が無いだけだった。
中学校の担任の先生も、もっと頑張れば上を目指せるのに勿体無い、こんな所で燻っているなんて宝の持ち腐れだと言っていたが、時季にはそんな事は関係無かった。
ただ毎日がつまらなかった、それだけだった。
これといって友達と過ごすのも面白かったわけではないし家に居るのも退屈で仕方が無かった。
両親は喧嘩ばかりで、中学校1年生のある日、自分を捨てた。
両親と引き換えに時季が得たもの、それは多額のお金と一人で過ごす時間と場所だけであった。
だが、そんな自分が不幸だとは思っていなかった。
現に、この歳で一人暮らしをしている訳だし、お金にも困らない。
バイトをしなくても毎月ちゃんと生活していける額のお金が口座に振り込まれる。
言ってしまえば自由なのだ。
だからこそ、この世界に飽き飽きしていた時季は、正直高校に入学するのも最初は乗り気ではなかった。
ただ、離婚した両親が珍しく意見を一致させて高校は出る様にと念を押してきた為、渋々了承するのだった。
受験勉強もしていた訳ではない。
高校受験の前日には夜通し遊んでいたぐらいなのだから。
当然、寝不足なまま受験を受けた訳だが、点数も悪くなく、当日の得点ならもうワンランク上の高校も狙えたと中学校の担任に教えられたのは合格が決まってからの事だった。

こうして向かえた入学式…
期待も不安もせず、ただただ惰性に生きる時季の人生が大きく変わり始めたのはこの日からだった…
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