Dream
□ゼロセンチメートル
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何だ、この絶対あり得ない光景。略して絶景。
テスト前だから朝早く学校に行って生物の勉強してたら岸谷が登校してきて、挨拶ついでに難しいんだよねぇ生物って一言漏らしたらじゃあ放課後教えてあげるよって言われて、マジですか神様うわぁぁってなって、もちろん授業は上の空で、今放課後みたいな。
今、岸谷待ってるJKが教室に一人みたいな。
しかも絶頂岸谷に片思いJK、みたいな。
「(どうしましょうかね…)」
どうしようも何も、勉強を教えてもらうだけのことなのに……何も起きる訳ないじゃないか。
落ち着くんだ、落ち着くんだ自分。
「ああ、名無しさんさん、遅れてごめん!待ったよね?」
「んぐっ!?…あ、いやいや、全然大丈夫です…ッス」
突然教室に入ってくるな岸谷。喉から出ちゃいけない声が出ちゃったじゃないか。そして改まっちゃうじゃないか。
「大丈夫…?」
「ごめん、大丈夫だよ!」
「そう?…じゃ、やろっか」
良かった、深くつっこまれなくて。
気を取り直してバサバサと教科書と問題集とノートを広げてると、岸谷が椅子を私の真横に寄せて座った。近いッス、近すぎッス。
「お願い、します」
「それで、どこが分からないの?」
「えと…この窒素同化のとこが…」
「ああ、ここね!ここはね…」
♂♀
「ん、分かった!だからこれがこのイオンになるわけだ!!」
おっそろしく分かり易い説明。頭の悪い私がこんなにも早く理解出来たんだから、ゴッド岸谷は先生になるべきだね。
「そうそう!でね、ついでなんだけど…」
また説明を続けてくれる岸…た………に………あれ?
わたくし、今この自分のビッグフェイスを少しでもゴッドの方に向けたら、きっとおそらく、たぶん絶対マウストゥ…マウス。
「(…夢中になりすぎた…は、恥ず……でも、体を引くのは失礼な気が……でもこのままだときっと岸谷が地獄絵図を見る………そっと、そぉーっと離れ)」
「名無しさんさん?」
「あ、ごめ!……ん」
突然呼びかけられる。
ボサッとしてた私は驚く。
その結果、岸谷の方を向く。
忘れないでほしいのは、私と岸谷の距離は、あっても拳一つ分くらいってこと。
「んっ、」
ああ、だめ。初体験一気に来すぎ。
片思いの人と2人で勉強とか、さっきまでの至近距離とか、不意打ち事故のキスとか、なかなか離してもらえない唇とか。
いろんな事がグルグル頭を駆けめぐるけど、一つだけはっきりと分かったのは、私は本当に岸谷が好きだってこと。
軽くリップ音がして離れた唇。ハッと我に返り顔に集まる熱、思わず視線を床に向ける。
「…っ……き…岸、谷…」
しっかりと押さえられてた後頭部。今は自由の身。
なのに何だか自分で制御できないくらいクラクラする。
「……ごめん」
「い、や…こっちこそ」
いや、何で謝った、自分。
身動き一つ取れず、ただ席に座ってることしかできない。
「…好き、」
「…え?」
「え?」
好き、
そう発したのは、紛れもない、私。
気づいたら口をついてこの言葉が出ていた。
こんな変なタイミングで告白しちゃうほど、好き、なのか。
「…あの、岸谷…」
穴があったら入りたい。
入らせてください。
恐る恐る顔を上げると、ギュッと岸谷に抱き締められた。
「名無しさん、」
「……っ!」
「もう一回、してもいい?」
なんて、そう聞かれたから
お願いします、って小声で呟いてやった。
ゼロセンチメートル
(僕も、好き)
(順番おかしいよね?)