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□四点減点、嘘を付いた
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だから、私は好きでここにいるんじゃないし。折原臨也の助手とか知らないし。
「…はぁ」
今のため息は仕事に対するストレスになのか。それとも、もう明日で一応区切りとなっている一週間という期間が終わってしまうからなのか。
はたまた、自分の気持ちが、理解不能になってきているからなのか。
理由がどれにせよ一つ言えることは、いずれも原因は折原臨也のせいであるということだ。
「名無しさん、ご飯まだ?」
「もう少し待ってくださいって…」
キッチンにひょこっと顔を出した折原臨也。あのご飯を作った日以来、できる限りの食事の用意はしてる。今は夕飯の(今日は折原臨也にハンバーグが食べたいとのリクエスト)準備中であって、ハンバーグを作るべく切った野菜と挽き肉、卵にパン粉、牛乳とかをボウルに入れ終えて、今まさにこねようとしている。
「手伝うよ。暇だし」
手を洗い、腕まくりをした折原臨也はいつもと少し違って見える。
「…でも」
「その爪、」
私からボウルを取った折原臨也は手早く種をこね始めた。
「やりづらいでしょ」
「気づいてたなら、ハンバーグ食べたいなんて言わないでくださいよ…」
いいじゃないか、食べたいんだからと笑う折原臨也。
料理なんかしたことなさそうなのに、この人は知ってる。ハンバーグのこね方とか、ネイルした爪じゃやりづらいとか。
その前に、私がネイルをしたということにも。
そんな些細な事が、嬉しい。
「…ありがとうございます」
♂♀
結局最後まで作ってもらい、私が作ったと言える夕飯ではなくなってしまった。(くそ…)
「臨也さん、料理上手ですね」
「やっぱ俺って天才だったりして」
「…はいはい。いただきます」
折原臨也特製、洋風ハンバーグに見せかけて味はシンプルドッキリ和風ハンバーグ☆……らしい。
ネーミングセンスはともかく、味は悔しいけどかなり美味しい。
「どう?」
「美味しいですよ!」
「当たり前」
端からみたら、仲のよい友達と言うより恋人同士もしくは兄弟など、親密な関係に見えるのかもしれない。明らかに、前者は希望だったりするわけで。
これだけ料理が上手だと誰かに食べさせてるんじゃないか、とかその相手とか、どうしよもないくらい気になってくるもので。
「臨也さんは、彼女…とかいないんですか?」
なんて質問を口走ってた。
「彼女?…ハハハッ!いないよ?俺は人間を平等に愛してるからね。ただ一人、あの喧嘩人形を除くけど。誰か一人とか決められないなぁ。昔からモテたけどつき合ったこととか無いよ。俺、紳士だし」
「…質問した、私がバカでした」
相変わらずの臨也節。まあ、いないってことは分かったし、やっぱりモテると言うことも分かった。
「で、何で?」
「…へ?」
ピタリと、二人の箸が止まる。
口は笑ってるけど、目は真剣な彼に吸い込まれるように目を捕らえられる。
「何でそんなこと聞いたの?」
「何でって……、ただ臨也さんに興味が」
「興味?」
興味。
本当はそんなんじゃないくせに。私は、まだ認めたくない部分があるのかもしれない。
その前に、私が本当に伝えたいことは口にできる訳がない。次の言葉を探そうと脳内を探るけど、見つからない。
「まあ俺は少なからず君に興味はあるけどね。もちろん良い意味で。でも、それ以下でもそれ以上でもない」
「です、よね……すみません、突然」
ギュッと締め付けられるように胸が痛くなる。気を緩めたらどうにかなってしまいそうで、再び箸を進める。もう、目を見て話すことができなくなり、出来るだけ視線を下に向ける。
と、折原はたぶんまだ箸を止めたまま、また話し出した。
「…ああ、そうだ」
「何ですか?」
どうしても聞きたくない、言葉を。
「明日で名無しさん、家に帰れるよ」
四点減点、嘘をついた
(待ち望んでいたはずの言葉が)
(つらくてつらくてたまらないのは)
(きっと折原のせい、)