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□ゲームオーバー、君の負け
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だから、私は好きでここにいるんじゃないし。折原臨也の助手とか知らないし。






「この書類はここで…」



今日で最後の仕事。
正直あっという間過ぎて、まだ何の実感もわかない。でも折原臨也が分かるように、きちんと仕事類のものはまとめてから出て行かなくてはならない。



「この輸送物はあっちに、」



朝、最後になる仕事を聞きにリビングに入ると折原臨也の姿はなかった。…少しだけ、寂しい。



「で、このUSBはあの棚の中…と」



自己満足と言えばそれまでなのだが、最後くらい感謝の気持ちを表したい。
洗面所から、洗濯機の止まった音がした。
私の出来る恩返しは、家事くらいだ。







「しかしまあ…」



洗濯物を干したベランダは、晴天に合わず、黒 黒 黒。私の服装もモノトーンで派手ではないので、黒と少しの白い洋服が風に揺らいでいる。



リビングへ戻り洗い物をする。折原臨也に貸してもらったマグカップも今日でさよならだ。



−(野菜くらい食べてくださいって…)
−(大丈夫だよ。俺、若いから。永遠の17歳だし)
−(明日から夕飯抜きです)



「結局、野菜食べてくれなかったな…」



雑巾を片手に、デスク周りや棚、テレビデッキなどをしっかりと拭いていく。大きな折原のデスクは拭くのに時間がかかる。でも、それでよかった。



−(…何で俺のいすに座ってるの?)
−(臨也さんにはもったいないと思いまして)
−(君みたいなちんけ者には十年早いよ)



掃除機でソファ周りを掃除する。無駄にフカフカなソファも、テレビが一番良く見えるポジションも、大好きだ。



−(うっわ、エグッ)
−(ホラー特番見てるんだから、少しくらい可愛い声出しなよ)
−(きゃーこわーい!)
−(なめてるのか…?)



この一週間、本当にたくさんのことがあった。冷静で生意気で、悔しいけどかっこよくて、でも子供のような折原臨也に怒ったり笑ったり。



「楽しかった、な」



掃除機を置いてソファに腰掛ける。
町を染める夕陽に目を細めながら、夕飯は作っていくべきなのか考えた。



♂♀



「………うーっ………!?」



ハッと気づくと当たりは暗闇。ソファに座ったまま寝てしまったと気づくのに時間はかからなかった。



「(あ、まだ帰ってきてないんだ)」



この時間から夕飯を作るなんて遅すぎる、と言うか果たして今何時なのだろうか。ソファに座ったまま腕を伸ばして伸びをする。
部屋に差していた夕陽は煌びやかな街の明かりに変わっていた。



「あーあ、……臨也さんが帰ってくる前には、帰ろ……」



帰ろうと思ったのに。
そう言葉が続けられない。電気が付いてない部屋で街を見ながら、言葉に詰まる。

折原臨也の下で働くのが楽しかったから?折原臨也に別れを告げるなんて事が恥ずかしいから?折原臨也の前から姿を消すのに気が引けたから?




違う。全部、違う。




「臨也さんが、好きだからだ…」



気づいてないつもりだった。
自分の気持ちを押し殺していたつもりだった。
なのに、どうして最後になってこんなにも感情が出てきてしまうのか。

気づいてはいけないのに。そう分かっているはずなのに。



「どうしてこんなにっ…苦しいの?」



グッと唇を噛む。柄にもなく涙が溢れそうで、ギュッと目をつぶり上を向く。それでも、涙は溢れ出してくる。



「臨也さん…」












「…あのさぁ」




ソファの右側が沈む感じがした。



「いろいろ聞きたいことはあるんだけど、俺の前から勝手に消えようなんてひどすぎないかい?」



「…臨也さん……?え、いつから……」



一番会いたくて会いたくなかった人の姿に、流れ出した涙も引っ込まる。
いつからいたのか。まさか、さっきの言葉は聞かれてないか。頭がグルグルグルグル、今までにないほどこんがらがっている。



「いつから?そうだね、その前に一言言っておこうか」



街明かりに照らされた彼の横顔に、また目を奪われる。




「俺がいいって言うまで、離れさせないよ」



「…それって、」



どこまで言わせるつもり?と、口調は少し荒々しいが顔は笑っている折原臨也。





「明日も明後日も、来週も来月も来年もずっと…俺の側にいさせる……ってこと」







ゲームオーバー、君の負け

(あの、)
(ああ、さっきの質問?)
(…まさかですけど…)
(可愛いとこあるじゃないか)(うわぁぁぁぁぁ!)


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