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□おいで可愛い子猫ちゃん
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先に言っておくけども私は雲雀さんの彼女でないし、彼女になるつもりはさらっさら無い!
…かも。
「…おもしろい登場ありがとうございます」
「そう?喜んでもらえて嬉しいよ」
「なかなかシュールですね」
さて、私がお風呂に入っていたほんの1時間弱の間に何があったのか。
一度ドアを開けた。
一度ドアを閉めた。
もう一度ドアを開けた。
そして今にいたる。
「どうして私の部屋の私のベッドに雲雀さんがパジャマで寝ているんですか」
真っ黒のちょっとお高そうなパジャマがよく似合う雲雀さん。…くそ、細身の彼がうらやましい。
「名無しさんのお母さんにね、娘さんの彼氏ですって言ったら通してくれて。ちょうどシャワーも浴びてきたとこだし、たまたまパジャマもあったしせっかくだから泊まっていこうと思ったんだよ。…悪い?」
「悪い?じゃないですよ。たまたまパジャマ持ち合わせてたってどんな状況ですか気持ち悪い」
「そんなことはどうでもいいよ」
おいで、と言わんばかりにベッドに入って掛け布団をめくっている雲雀さん。
って言うかベッドをシェアですか。
「…私、敷き布団持ってきます」
「何言ってるの?僕に逆らうつもり?」
「いやいやいやいや、まさか、カップルでもないのに一緒に寝るなんてありえな………すいません」
そのトンファーはいつもどこにしまってるんですか…。
たぶん、これ以上下手な真似をしたら私の命は無い、絶対。
「さあ、おいで」
「………雲雀さんが寝てから、入らせていただきます」
「風邪引くよ。早く暖まらないと」
確かに、寒いことには寒い。
お風呂から出たらすぐに寝ようと思ってたため、部屋の暖房は付けてない。
かと言って今私が寝たら、いろいろ失う気がする。
「…雲雀さん、早く寝てください。寒いんで…」
「なら早くおいで」
「…ああ、もう!」
どうやら会話をする気がないらしい雲雀さん。暖房を付けたいが、もう夜も更けたし、乾燥するからそうするわけにもいかない。
けど、敷き布団を持ってこようとしたら確実に殺られる。
……………こうなったら仕方ない。
「…雲雀さん。……壁の方向いて全力で壁にくっついてください」
「そうすれば、名無しさんは一緒に寝てくれるんだよね?」
「……超イヤですけど」
「仕方ないね」
向きを変えてノソノソと壁の方に移動して停止。
さあ、私、頑張れ、私。
部屋の電気を消してしばらく目を凝らす。
ほんの少し経つと目が慣れてきて、いつもの部屋の感じがつかめるようになってくる。
「…こっち向いたら一生口聞きませんからね」
そっとベッドに潜り込む。もちろん壁とは反対向きで。
ベッドの際、ギリギリの所で踏ん張る私。全身の筋肉と言う筋肉を張って、プルプルしながらも落ちないように耐える。
はっきり言って寝る体制ではない。
「…………」
「……(あれ)」
意外にも静かな、と言うか無口な雲雀さん。
…ちょっと調子狂うじゃないですか。
「雲雀さん…?」
「何?」
「……いえ、別に」
なーんか素っ気ない。
変に手出されるよりはましだけど、どうにもこうにもしっくりこない。
不本意だけど、…とっても不本意だけど、少しだけ雲雀さんの方を向いてみる。
「…………あの、」
「何?」
何?じゃないです。
すでにこちらを向いているのはなぜでしょうか。パッチリと目があってしまい、どうにもこうにも動けない。
…蛇に睨まれた蛙みたい。
「やっとこっちに来る気になった?」
「………そんな訳、」
無いですよ、と続けようとした言葉は遮られた。
「………う……」
「暖かいでしょ?この方が」
「………そうじゃ、なくて…」
またもこう、油断して雲雀さんの腕の中。しかし、今回に限っては状況が状況で何かもう、いろいろと気が気でない。
吐息しか聞こえないこととか、いつもよりずっと近い距離感とか、真っ暗な部屋のベッドの上とか。
でも離してとは言えない自分がいるのも現状。
「……手、出したらぶっ殺します」
「こんな良いムード、自分から壊しに行くわけ無いよ」
いつものように悪態をつく。
可愛くないね、可愛いけど、と訳の分からない言葉を言う雲雀さんに相変わらず変態ですね、と言葉を返す。
可愛い台詞の一つも言えない私に雲雀さんは、またいつもと同じように、
「好きだよ、名無しさん」
と幾度も聞いた言葉を囁いた。
おいで可愛い子猫ちゃん
(ひ、雲雀さん、その、ふふふ髪型っははは!)
(名無しさんが昨日激しかったからね)
(……何でそうなります?)