Book 大好きな君へ

□love song...]X
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「………恭弥さん」



こんなに優しく抱きしめられたのは初めてだった。
ふりほどくことだってできた。なのに、どうしてか私はそれをしなかった。できなかった。



「今日は、送ってく」



紺色になってきた空。
最後に一瞬、少しだけ強く私を抱きしめて腕を放した。腕を放されたため、温もりが消える。気づいたら、もう涙は止まっていて気持ちも落ち着いていた。



「…お願い、します」



たぶん、この人に何を言っても今日は送ってくと言って聞かないだろう。先ほどのあれを気にすることなく、いつものように話す恭弥さん。彼が何を思っているのかは分からないが、私はこの言葉に甘えることにした。



「ちょっと待ってて」



学ランを羽織って応接室を出て行った恭弥さん。急に静かになった応接室。テーブルの上のカップを2つ、台所へと運ぶ。シンクを見ると洗剤とスポンジが置いてあったので、勝手に使わせてもらった。

カップを洗い終えて、タオルで拭いていたら恭弥さんが戻ってきた音がした。台所から顔を覗かすと、少し口角を上げて優しく笑った。



「…助かるよ。ありがとう」



「……!い、いえ…」



こんなにも優しい顔をするのか。この人は、とてもとても、優しいんだ。
と、彼の肩にカバンがかかっているのが見えた。見覚えのあるキーホルダー。



「私の、カバン…」



「帰ろうか」



ソファーの脇に置いてあった制服が入った袋と私のカバンを持ち、応接室を後にする恭弥さんの数歩後をついて行く。
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