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□チカロウ
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「おい、桂。起きろ」


耳元で囁く低い声。


朦朧とした意識の中、ゆっくり瞼を開けると、薄暗闇の中にぼんやり一人の男の顔が見えた。



    ・…チカロウ…・


そこは、6畳程の狭い納屋のような部屋だった。
天井の板の隙間から光が漏れている。ここは地下なのだろうか?…


すると突然、強烈な頭痛が桂を襲った。


(そういえば…)


意識が戻るにつれ、記憶が走馬灯の様に蘇る。


万事屋に寄った帰り、新撰組に輩に追われたのだ。
そして無我夢中でどこかの路地裏に逃げた…
そこでだ、誰かに薬を嗅がされた…?



「いつまで寝てんでィ」


再び響いた低い声。

そこに居たのは、桂を覗き込む年若い男。


「…沖田…?」



―ズキッ―


突然右足に走る鋭い痛み。
そうだ。俺は路地裏に逃げ込む前、沖田の放った大砲に足をやられたんだ。


「沖田…どういうことだ」

「桂ァ、やっと捕まってくれたな。いい眺めだぜ」


ガチャ、と音がする方向を見ると、桂の手首は木の柱に手錠で繋がれていた。
手錠で繋がれるのも当然と言えば当然なのだが、頭の上で手を組む様な形で手錠が嵌められている事に、どこか不安を感じた。

桂はそれから逃れようと、2・3回手を強く振ったが、太く重量のある金属だ、簡単には千切れない。
結局諦めざるを得ず、部屋には鈍い金属音が虚しく響いた。

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